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本を蝶にして。

夕刻のチャイムの時間が変わった。
10月がやってきたんだなぁ。

「やわらかなレタス」というエッセイを読んでいた。江國香織さんの。

なんだか甘やかな香りのする読後感が好きで酔いしれる。
顔を上げて驚く。
そこには、紙と文字しかないのだ。

なんて。

そんな魔法をかけてしまう人がいる事。
きっと彼女は、魔法遣い。
そして
これは、魔法の書だ。

だけど、それは、感じられる人にしか感じられないものだ。

例えばそんな風に世界は秘密を隠している。

あなたが見つけた秘密をそっと教えてほしい。
言葉じゃなくて。
一緒に居ることで。

見えない世界を分け合いながら
目に見える世界は、繋がって居る。

ねぇそんな事を話したらあなたはどんな風に思いますか?

そうやって人の瞳は、手紙を書いている。

見つめ合うより目を合わせていたい。
そっと。

そんな事を考えながら
本を蝶にして微睡む。
こんな時間が一番幸せだ。

あたりはもうすっかり真っ暗。
電気をつける。
まだこんな時間か。なんて思いながら
こういう事にも慣れてしまうのかもしれない。
慣れたくないのにな。
忘れないってどんな事だろ。って思う。
きっと忘れたんじゃなく、形を変えたり抱き方が変わったりしただけだ。
そういう風に想っていたい。
季節の生き方を
思い出せるという事。
心には幾つもの引き出しがある。
その鍵を、そっと世界の片隅に。
風や気候や夕刻のチャイムが開く引き出しに。





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