クロワッサンと夏の日の贈り物
8月の上旬。
夏の始まりに心浮かされて。
少し早起きをして、パンを買いに出かけた。
日中に比べると
空気はひんやりと心地よく
街は静けさに包まれていた。
その日は、土曜日だった。
その道中。
開店したばかりの旅行会社の窓口に並んでいるカップルの姿が目に留まった。
こんなに早い時間から
休みの日に、ふたり揃って旅行会社にいる姿を見てなんだかあたたかい気持ちになった。
幸せって何かを悟るような瞬間だと思った。
こんな所に隠れてるんだなぁ。なんて
そんな事を思った。
彼女は、手に持った旅行ガイドを見ている。
彼は、そんな彼女を優しく見守りながら、時折話しかけていた。
彼らの間に流れる穏やかな時間が、伝わってくるようだった。
そんなふたりを見送って
パン屋のドアを開ける。
焼きたてのパンの香りが、心地よく広がっていた。
お気に入りのクロワッサンとコーヒーを選びながら幸福な気持ちになっていた。
パン屋から家へ戻る道すがら、ふと自分の生活を振り返ってみた。
日々の忙しさに流される中で
どれだけの「特別な瞬間」を見逃しているのだろうか。
大袈裟だけれど
そんな事を考えた。
そういうものに気付ける事は、きっと心のゆとりだ。
でもそれをもてる瞬間ばかりじゃない。
だから
それを感じられた自分が嬉しくなった。
そんな風に自分の事を大切にしていたいなぁと思った。
家に着いて朝食をテーブルに並べた。
小さなクロワッサンと温かいコーヒーが、一日の始まりを優しく迎えてくれた。
最後まで読んでいただきありがとうございます。