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今だからこそ、前向きに!

9年前、3月11日。私はその日、ひどい二日酔いで当時働いていたアパレルのブティクに立っていました。

「何か揺れてる…」

ラックに均等に並べられている洋服がユラユラ揺れるのを見てそう思ったのですが、当時、毎日のように飲み歩いていた私には、それが二日酔いからくるものなのか、それとも地震なのかは判断できない「揺れ」でした。

というのも、私は阪神大震災が起こった時、阪神高速道路が倒れた所から徒歩2、3分の所に住んでいたので、地震というものは、ユラユラではなく激しく「揺れる」ものだとインプットしていたのです。

二日酔い疑惑の「揺れ」から1時間後、パリから「至急非難」というタイトルの大量のメールが携帯に届きました。更に2時間後アメリカから「帰宅せよ。救援物資の希望があれば個別メールを受け付けます」とのメールが携帯に届きました。

私が働いていたブティックは百貨店に入っていたので、1ブランドの決定で閉店し、帰宅することは不可能だったので、その旨をメールで伝えると「被曝するぞ」と返信がきました。

訳が分からないまま、閉店まで営業した帰り道に見た携帯のニュースで、福島の原発のことを知りました。

翌日、私は一気に不安になりました。自然界にない「被曝」という私の周りは誰も経験したことのない事態に、社内もパニックに。特に関東周辺は通勤手段が整わず、大パニックになりました。百貨店が閉店や時短営業をする中、直営店だけが「日常」を保つことにフォーカスしました。

「我々の使命は、人々を洋服で幸せにすることだ。今だからこそ、前向きに!日常を守ろう」

パリから発信されたメッセージは明確でした。

しかし同時に、個人主義を徹底するパリらしく「この決定に賛成できない者は、個別に連絡してほしい。休んでいる期間の給料を出来る限り保証したいので、状況を教えてほしい」とメールを締めくくっていました。

関西のブティックに勤務していた私達は、関東の分の予算も達成するための緊急ミーティングを開き、収入が必要で、仕事に行きたくてもいけない働くシングル女子とシングルマザー達の力に少しでもなろう!と救援物資のリストアップや買い出しを行い「今だからこそ、前向きに!」を誓い合いました。

あの時私は、シングル女子とか、シングルマザーにはまるで興味のない世界に生きていたのですが、心の中心にあったのは「仲間を絶対に守る!」という強い気持ちでした。それは興奮にも似た、ポジティブな感情であったようにも思います。「この状況をサバイブするんだ」という、阪神大震災後に強く感じた、自分の中の野生というようなものが、また顔を出した瞬間でした。 

私達の決定には賛否両論があり、ブティックを去っていく仲間も沢山いました。私は自分のしたことが、正しかったのか…いつも不安でした。そんな時に、帰国子女チームが教えてくれたのが「女の義理」という話でした。「未婚だ、既婚だ、シングルマザーだって、女達はいつも分断に騒がしいけれど、ふと目の前を歩いている女子のスカート(パンツ)に血がついていたら、女はいつでもすぐに団結する。タンポンを持っている女は皆んな差し出すし、血のついたスカートを自分達が着ているカーディガンやストールで、どうにかして隠してあげようとする。それが、女の義理だ」と。

今考えると、分かるような分からない説明なのですが、理屈だけでは生きられない女という生き物の、美しさ、残酷さ、そして尊さを感じた言葉として、今でもよく覚えています。

そして今、コロナウィルスが世界で猛威をふるい始めています。でも今自分に出来る事は9年前のあの日と同じ、いつものように家を整えて、自分の仕事をすることなんだと思い、これを書いています。

今日も庭には和らい日差しが溢れて、夜には大根の薄切りに失敗したような月が昇り、まるでニュースで見る辛い出来事が幻のようです。どんな風に感じても胸が詰まる日々ですが

「今だからこそ、前向きに!」

コロナウィルスで、抱えなければいけなくなった私達の問題を、特に子育て中のシングルマザーの問題を、皆んなでシェアしながら乗り越えていけるよう、頑張っていきたい。

これからの未来が私達にとって、どうか笑顔溢れる豊かな世界でありますように。


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