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「さあ、声を上げよう!」/ラティーナのパワーを世界に見せつけたハーフタイムショー

「今までで1番のハーフタイムショーだった!」「パワフルで、はっきりしたメッセージが伝わってきて最高だった!」とにかく大絶賛された今年のハーフタイムショー。

2月2日マイアミ、この日はアメリカ最大のお祭りスーパーボウルの開催日でした。スポンサー企業はこの日の為に広告を打つ準備をし、その費用は5秒5ミリオンドル(約6億円)を超えている、といわれています。そのお祭りの目玉イベント、ハーフタイムショー、昨年は「史上最低のハーフタイムショーだった」と酷評され”輝き”を失ったとまでいわれていましたが、今年見事にその”輝き”を取り戻しました。

去年のハーフタイムショー開催までの経緯はこちらに書いています。

昨年までと今年のハーフタイムショーが大きく異なるのは、大物Jay-z が率いる組織Roc nation(ロックネーション)が全面的にショーをオーガナイズしたことです。

ことの発端は3年前、白人警官の黒人に対する違法な取り締まりや暴力、特にアフリカ系アメリカ人の射殺事件を受けて、N.F.L. (ナショナルフットボールリーグ)のスター選手、コリン・ケイパニックが国歌斉唱時に片膝を地面に付き抗議しました。ケイパニックの無言の抗議活動を支持するとし、カーディbやリアーナ、そしてJay-Z などの大物達が昨年のハーフタイムショー出演をキャンセル。

ケイパニックの支持者だったJay-Z がハーフタイムショーをオーガナイズすることは「ケイパニックに対する裏切りだ」という声が上がり始め炎上、ケイパニックの弁護士は「Jは冷血だ」と非難。事態は最悪の方向へ進むかと思われたのですが、JとRoc nation の幹部達は冷静でした。

Jは「N.F.L. の問題は、HipHoPが20年以上アメリカの音楽シーンを牽引してきたのに、未だにただの流行りの音だ、と勘違いしていることだ」と、毎年白人バンドを盛り上げる為に、Hip Hopアーティストをステージに上げる演出問題を指摘し「リーグの32チーム中、せいぜい2チームに対して1チームが有色人種がオーナーで、28チームのコーチは白人だ。それなのに7割以上の選手は黒人なんだ」と。

つまり、白人がコントロールしているN.F.L. にいおいて、いくら外から声を上げても変わらないし理解されない現実をJは発言していて、自分達(Roc nation)が内側に回って、中から人種差別を解体しよう、と考えたのです。

Roc nationのスポーツ部門最高責任者ジュアンは「誰かがドアを蹴り破って、真っ先に撃たれなきゃならないんだ。我々がその役割だ。何も恐れていないし、生涯かけてやり続けるよ」と発言。

「Jは裏切り者だ」というケイパニック賛成派や、「ケイパニックはやり過ぎだ」というケイパニック反対派に対してJは「今こそ、この問題はケイパニックという個人を越えて、話し合う必要があるんだ。誰もケイパニックがしたことが全く悪くないとはいっていない。彼はやり方を間違えてしまった。3ヶ月前に全てが起こってなら、俺はそれが理解できる。でも、3年前に起きたんだ。だから誰かが言う必要があったんだ。’皆んな何してんだよ?!人が死んでんだよ!まだ終わってなんかないんだ!’って」

Jは自分ならどんな非難にも耐えられる、だから白人のフットボールファン達も警官の違法な残忍性に目を向けるべきだ、と考え、その為にN.F.L. が持つ巨大な白人プラットフォームを利用することを決意しました。

「人が傷つけられ、社会から取り残され、家族のメンバーを失い続けるかぎり、俺はやる。どんなネガティブな圧力によってボロボロにされても、俺はそれを引き受ける」

と、Jはニューヨークタイムズのハーフタイムショー直前インタビューに答えていました。

Roc nationはハーフタイムショー出演アーティストの選考は、開催地の意見を聞くべきだ、と主張。ラティーノが多いマイアミでの開催を踏まえて、プエルトリコをバックボーンに持つジェニファー・ロペスとコロンビア人のシャキーラ、2人のラティーナが抜擢されました。

スタイル抜群の2人が、持ち前のセクシーさを炸裂させたステージ。そのセクシーさだけではなくステージ演出がアメリカで大絶賛されました!特に、エンパイアステートビルを連想させるセットから登場したジェニファー・ロペスが、自身のヒット曲「Jenny from the block」の最後に、自分はラティーナだけどアメリカ人だ!と言わんばかりに「フロム ブロンクス ニューヨーク!!」と自分の出身地を叫んだのには感動して鳥肌が…!!

そしてステージ後半、ジェニファー・ロペスの娘エマを含む多数のラテン系の子供達がシルバーのゲージに入れられて登場。これはトランプ大統領の移民政策により、メキシコボーダーで移民の親子を引き離し、子供達が不衛生な収容所に入れられていることを連想させる演出でした。

ゲージから出たエマは母ジェニファーの大大大ヒット曲「Let’s get loud 」を歌い始め、ジェニファー・ロペスがステージ後方から登場。表がアメリカ国旗、裏がプエルトリコ旗になっているゴージャスなファーを纏ったジェニファーが「Let’s get LOUD!!! Latino!!!!」「さあ、めちゃくち声を上げよう!ラティーノ!!」とシャウト!その横で娘のエマがブルース・スプリングスティーンの「Born in the USA」「アメリカで生まれたんだ」を熱唱し始め、そこにシャキーラが「Let’s get loud」と歌いながら飛び込んできたのです。

実はジェニファーのプエルトリコとアメリカ2カ国を表裏一体にしたゴージャスなファーは、米領であるプエルトリコが超大型ハリケーンにより壊滅的な被害を受けているのに、トランプ政権が復興支援を進めていないことへの痛烈な批判を表現していました。

彼女達のハーフタイムショー出演には、反ラティーノ派から「アメリカ人を出せ!!」と苦情が殺到していた背景があり、だからこそ、ジェニファーとシャキーラ「Born in the USA」と歌う幼いエマの側で、「Lets get  loud」をシャウトしまくったのです。

「自分達はアメリカ人だ!さあ、声を上げよう!ラティーノ!!」

2人のラティーナのパワフルなメッセージは、アメリカ最大の視聴率を誇るお祭りを舞台に、全世界に発信されました。

アメリカの長い歴史の中で、やっと反ラティーノにピリオドが打てるのかもしれない…という希望と輝きにあふれたステージに、なんだか泣けてしまいました。

Roc nation は今回の自分達のN.F.L. と歩み寄りが、Jay-z とケイパニックの決裂説を否定し、将来的にJとケイパニックのミッションが達成されることを心から願っている、とコメント。

そして最もパワフルなハーフタイムショー、と大絶賛されたショーを影で支えたJは、こうコメントしました。

We are two adult men who disagree on the tactic but marching for the same cause

ケイパニックと俺は、指揮の仕方が違うけど、同じ問題に向かってマーチしてるってことだ。

片膝を地面に付き沈黙するでも、怒りにまかせて暴力を振るうでもななく、音楽のパワーを世界に見せつけたJとRoc nation 。これからの活躍が楽しみです!


Bibliography :パワフルで挑戦的なハーフタイムショー、その意図したメッセージを強烈に伝える








































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