見出し画像

『新歴史・時代小説家になろう』第3回「歴史小説、時代小説の周辺」

【PR】

 さて、二回目までをお読みくださった方の中に、もしかすると違和感を抱いた方もいらっしゃるかもしれません。

「あれ? 自分の書きたい”歴史小説”の話が一切されないぞ」と。

 わたしが一回目と二回目で説明している歴史・時代小説は、あくまで物語の色の強い、文芸ジャンルとしての歴史・時代小説でした。でも、これをお読みの方の中には、「イメージと違う」という方もいらっしゃるんじゃないでしょうか。
 今日は、歴史・時代小説の周辺に存在する様々な書籍ジャンルのご紹介です。

歴史ミステリー(小説です)

 皆さんがお読みの本の中に、架空の人物である主人公が歴史の謎に直面し、様々な証拠を集めてその謎に挑むという趣向の小説はありませんでしたでしょうか。
 こちらは、歴史ミステリーと呼ばれる小説ジャンルで、歴史的な事象を扱い、歴史の秘められた謎を解くというストーリーから歴史小説の一種とも見なされることもありますし、限りなく歴史小説に近い作品もありますが、わたしはミステリー小説のサブジャンルと捉えています。
 なぜか。
 歴史ミステリーの主眼は「歴史の秘められた謎を主人公が解く」ことであり、この過程を描くものです。これは、歴史小説というより、「作中で提示された謎を探偵役が解く」ミステリーと構造が似通っているといえます。
 提示される謎が「歴史的なトピックス」のミステリー。これが歴史ミステリーなのではないか、というのがわたしの暫定的な結論です。
 もし歴史ミステリーを書きたいという方は、このエッセイの見込むお客様の層から少し外れてしまうのですが、同じ小説であること、方法論の一部に似通った部分があることなどもあるので、たまーに参考になることがあるんじゃないでしょうか、と思っております。

歴史書籍(小説ではありません)

 こちらは新書などでもよく展開されているので、皆さんもよくご覧になっているのではないでしょうか。歴史学者さんや歴史ライターさんといった歴史に詳しい方々がある歴史的事象について論拠を許に論じたり、現在の史学の動向についてまとめている本です。
 こちらを書きたいという方については、ごめんなさい。本エッセイの趣旨から外れてしまいます。あまりそちらの界隈についてわたしは詳しくないのですが、もし書きたいという方は、歴史学の方法論を学ばれた上で、論理的に持論を展開させる術を覚えてください、としか申し上げようがありません。たぶんこれからこのエッセイを読んでも、得るものは全くないと思います。

歴史真実本(小説と一緒にされては心外です)

 どうしたわけか、一部の方が「小説」と揶揄混じりに述べるジャンルがこの「歴史真実本」です。
 論説文形式で、ある歴史上の謎を取り上げ、通史から大きく外れたダイナミックな説を述べることの多い書籍群です。歴史ミステリーにおいてはフィクションであるという注意が様々なレベルにおいてなされているのに対し、こちらの歴史真実本は時折タイトルに「〇〇の真実」などと謳われることからもわかる通り、真実性を強く主張していることに特徴があります(念のため書いておきますが、「〇〇の真実」というタイトルであったからといって、すべてが歴史真実本であるとは限りません)。
 丁寧に史料を読み込まれ作られた歴史書籍とは違い、強烈な思い込みや論理の飛躍、ある種の思い入れなどによって構成されるこれらの書籍は、往々にして歴史学の成果、すなわち既存の権威を嘲笑う暗い愉悦を提供することで、読者にある種のカタルシスを与えています。
 先に書きました通り、時折「小説」と揶揄されることのある本ジャンルですが、断じてこれらは小説ではありません
 小説は、「フィクション」であることが何らかの形、形式によって提示されています。モキュメント(ドキュメント風のフィクション)の場合でも、必ずどこかに作りものであるという種明かしがなされます(あるいは作家自身が「小説」であると明言します)。小説は、「フィクション」であることに矜持があり、また「フィクション」の土壌から花開くものです。
 それに対して「歴史真実本」は往々にして真実性を喧伝することに特徴があります。小説とは逆方向の行ないなのです。
 実は「歴史真実本」は小説とも微妙な関係があるのですが、これ以上書くとどこかから怒られそうなので、このくらいにしておきます。
 これをお読みの皆さん、歴史真実本を小説と一緒くたにすると、怖いお兄さん(谷津)が襲い掛かってくるから気をつけようね!

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?