1/26発売『小説 西海屋騒動』(二見書房)はこんな話⑦慶蔵という「悪の雛形」
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原典「西海屋騒動」「唐土模様倭粋子」にて、理吉を主人公に置いた場合、その前に大きな壁として立ちはだかるのが慶蔵です。
原典においても、慶蔵は重大な意味を持つ登場人物です。何せ、タイトルにもなっている「西海屋」の乗っ取りを画策し、事実成功する男なのです。
原典は、いくつかのストーリーがこんがらがって成立しているのですが、大まかに、この三つのラインに分類できます。
・理吉の人生
・魯心の人生
・慶蔵の人生
もちろん他にも様々なラインは存在するのですが、この三人を追っていけば大まかにこの噺の概略を追えるようになっています。原典では神視点で描かれ、乾いた筆致で人の死が描かれていくこの作品に現代風の色をつけるべく、理吉の一代記の面を引き出し、他の面をサブのラインにすることによって時代小説風に仕立てたのです。
理吉の人生は本作の肝に当たる部分なのでネタバレにあたり、あまり話すことができません。が、慶蔵についてはかなり踏み込んだことを話せるので、詳述していこうと思います。
慶蔵は元々伊豆国出身だったのですが、母親が病みついたのを機に父と共に江戸に出たものの困窮、西海屋の先代に親子共々拾われ、御曹司の守り役となります。その後、商才を示して西海屋でも頭角を現していくことになるのですが、彼は西海屋の乗っ取りを品川の飯盛女であるお蓮と計画、代替わりした西海屋の主人を暗殺、さらにその奥さんまでいびり殺し、ついには西海屋を乗っ取ってしまいます。
そんな西海屋に奉公に上がったのが理吉なのです。
原典においてはあまり詳しいところは語られないのですが、わたしの目には、どうも理吉を悪の道に進ませたのは、この慶蔵であったような気がしてなりません。いや、実は西海屋に至るまでに理吉は既に手を汚している(!)のですが、その辺りの事情については大いに同情できる面があるというか、同じ状況に置かれていたら、同じことをしないとは限らないよなあと思わせるだけの説得力があります(現代でも情状酌量の余地が取り沙汰されるかもしれません)。でも、慶蔵と出会ってからの理吉は、どんどん一般人には理解のできない化け物になっていくんです。もともと理吉の中に存在した何かが慶蔵との出逢いで弾けた、つまるところ、悪縁ではなかったか、というのがわたしの読みです。
そんなわたしの原典理解から、慶蔵は理吉の「悪の雛形」として造形されていくのですが――。
原典を読んでいて、個人的に感じ入るものがあったのが、実は慶蔵の人物造形なんですよ。
ラスト近くに暫く登場していなかった慶蔵が再登場するのですが、彼の変化には、なんとなく身につまされるもの、というか、疲れ果ててしまった一人の男の悲哀がある気がしています。
そんなわけで、本作をお読みの際には、慶蔵にも注目していただけると嬉しいです。
なお……。
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が拙作に言及してくださいました。ありがとうございます!
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