それさく文庫書影

「曽呂利」「某には策があり申す」ライナーノーツ⑪曽呂利の妻子&島新吉・お茶

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 はい、本日は「曽呂利」「某には策があり申す」の主人公たちの家族に関してです。

曽呂利の家族
 曽(〇)  某(×)  孫(×)
島新吉・お茶
 曽(×)  某(〇)  孫(×)

 歴史上の人物の家族というのは大変難しいものです。まずもって実在があやふやであったりしますし、実在が確認できたとしても有名人の陰に隠れて今一つ逸話を検出できないなんてこともよくあります。そして、特にストーリーに関わらないとなるとなおのこと出すのが億劫になってしまい結局削ってしまうことも多いのです。

 実は、単行本版「曽呂利」には曽呂利の家族は一切出てきませんでした。曽呂利新左衛門の家族というものを一切想像できませんでしたし、なにより単行本版を書いた時のわたしはまだ独身で家族というものを本質的に理解できていなかったと言えるのかもしれません。
 ところが文庫化までに結婚をしまして、ようやく家庭を持つということを知ったことで、曽呂利の家族を描くことができたような気がしています。
 といいつつ、いきなり妻子が首を吊ってますけどね!(爆)
 単行本版ではこの役目は曽呂利の師匠でした。けれど、それだとちょっといろいろ弱いこと、そしてラストシーンの布石にするためにも曽呂利の妻と子供に役目を譲った次第です。この変更は個人的にやってよかったと思っています。単行本版だとちょっと頭でっかちな感じになってしまっていた曽呂利に、一定の人間味を与えることができたんじゃないかと思っています。

 さて、一方、家族を強く描こうと意識したのが「某には策があり申す」でした。
 口うるさい妻のお茶、そして島左近から見ると心もとなく見える長男の新吉。当初はこの二人を交えたホームドラマ的な側面のある本作ですが、もちろんこれも計算です。
 谷津版島左近は家庭や家族といった絆をかなぐり捨て、突っ走っていってしまう人物です。それゆえに、お茶や新吉の思いが踏みにじられていく感じを描きたかったなあと。
 なお、島左近の妻の名は「茶々」と伝わっていますが、史上有名な茶々(秀吉の側室淀殿)が存在するため、ちょっと名前を変えた経緯があります。
 そして、新吉については「親離れ」を描こうという思いがありました。あまりに優れた父、その父からの独立、みたいなものを切り取ってみたかったんです。実は当初はそれだけのつもりでいたのですが、新吉の親離れが結果として父親島左近の人間としての欠陥を浮き彫りにしてくれましたし、島左近の蹉跌をも予言してくれました。そういう意味では、作者の思惑を超えて大きく育ってくれた登場人物ともいえるでしょう。

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