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7/7発売『雲州下屋敷の幽霊』(文春文庫)を形作った、松平宗衍

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 この短編集の形を大きく規定したのは、第二作目の「雲州下屋敷の幽霊」でした。第一作目は、鼠小僧を主人公にした『しゃらくせえ鼠小僧伝』(幻冬舎)にかこつけたエッセイの代わりに書かせてもらった小説「だらだら祭りの頃に」だったんですが、この小説はかなりふわっと書かせて貰った、というか、特に企みもなにもなく、目の前の仕事に取り組んだ感じの短編でした(ちなみに、この後単行本にまとめる際、一番手を入れたのはこの「だらだら祭り~」でした。本作だけは結末が変わるレベルで手を入れています)。
 けれど、半年に一遍の連載が決定した際、当然単行本化が視野に入り、大きな縦糸が必要だよね、ということになったんです。そこで書いたのが「雲州下屋敷の幽霊」だったのですが……。
 まあ悩みましたよね。なにを書いたらいいのやら、と。
 そんな中、たまたま見つけたのが、松平宗衍という人物でした。
 優れた藩主でありつつも、後半生にはちょっと曰くのある逸話を残している人物です。お化けの仮装を従えて人々を驚かせた、裸の茶会を開いた、女中の背中に牡丹の文身を彫らせた……。後半生の逸話は、前半生、藩政を立て直した名君の影はありません。雲州において名君として知られる松平不昧の政治家としての業績も、実は宗衍によるところ大であったという話もまた、わたしの興味を引くところでした。
 そんな人が、なぜこんな奇矯な行ないを?
 この人物の逸話を知った瞬間、妻(新婚ほやほや)に彼の逸話を話しまくり、嫌な顔をされたのをふと思い出します。

 本作のコンセプトを大きく決めたのは、松平宗衍との出逢いだったのです。

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