見出し画像

1/26発売『小説 西海屋騒動』(二見書房)はこんな話⑫原典には登場しない登場人物・定丸

【PR】

 さて、『小説 西海屋騒動』には、一切原典に登場しない人物がいます。チョイ役でいえば、川越宿のやくざ、血染めの又兵衛は一切登場しません。あれは、やや原典では分量が少なかった魯心編を膨らませるための一エピソードで、やられキャラ以上の意味はありません。
 ところが、ストーリーに大きく影響を与えている人物で、かつ拙作でしか登場しない人物がいます。定丸です。本作においては、幼少期の理吉に博打を教えたり、あれやこれやなことをして最終的にああなってしまう、出番は少ないながらも重要な登場人物です。
 ではなぜ、谷津はこんな重要人物を創作する必要があったのでしょうか。

 原典において、理吉が悪の道に落ちるのは親の世代からの悪縁のためと説明づけられています。もっといってしまえば、「蛙の子は蛙」的な、凄く素朴な親子観でもって理吉の不良化が説明されるのですが……。
 現代の小説としては、それでは問題がありすぎます。もちろん、家庭環境が子供に与える影響は甚大であり、親の社会的な地位やクラスがある程度子供の世代に引き継がれてしまう現象はよく知られたところですが、それでも、もしそれを小説に取り上げるとするなら、何らかのフォロー、というか、作品内でそういう世界であることを提示する必要があります。
 ただ、ややこしいのは、そういった世界であることを提示しても、理吉の場合、彼の転落を小説的な文脈を駆使しても説明しづらいんですね。どういうことかというと(以下ネタバレあり、スクロールしてください)









 理吉の実父は悪人でしたが、理吉の環境を作ったのは分限者の養父母だったからです。
 恵まれた環境、そして、恵まれた地位。
 これらのものをどう突き崩して悪の道に落とすのか。
 そう考えていくうちに、理吉を悪の道に落とす人物が必要だろうとなり、そうして誕生したのが定丸だったのです。
 谷津版の理吉は何かに飢えています。そして、その飢えに引きずられるようにして少しずつ悪の道に接近していく。その流れを作り出す男として設計されたのが定丸だったのです。
 個人的には、本作の中でも結構気に入っている人物です。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?