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1/26発売『小説 西海屋騒動』(二見書房)はこんな話⑪理吉の兄、九紋龍の新吉

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 さて、今回は本作における主人公の理吉の兄である新吉についてです。

 それにつけても、原典を読んだ上で訳がわからないという意味では、この新吉の右に出る者はいないかも知れません。

脇本陣の長男に生まれるもやくざに憧れ彫り物を彫ってしまう わかる
親、それを嘆きながらも家に住まわせる         まあわかる
ある日やってきたお坊さん(魯心)に棒術を学ぶ     まあわかる
突然江戸に出たいと言い出す              わからない
江戸で勘当された弟と再会               わからない
魯心が面倒を見ていた子供の仇討ちに参加        わからない
たまたま仇討ちの場面で弟と遭遇            わからない

 なんというか、新吉の行動規範がよくわからないよ! となっちゃったんですね。ここから見て取れるのは、凄く大事に育てられた長男坊がやくざな道に憧れて家を飛び出し、やくざの道にまっしぐらに進むうち、弟と対立するにいたるという道のりですが、理吉に対してどう考えていたのかよくわかりませんし、成り行きに任せてその都度正論を吐いて去って行く人間だなあと思っていたのです。
 と、このときふと気づいたんですよ。
 この人は、もしかすると恵まれている人なのかも知れない、と。
 親からは終始愛されていた様子ですし、魯心に棒術を学ぶことができ、ある意味で渡世の術を手に入れることができたわけです。それに原典においては筋骨隆々の丈夫として表現されており、その辺も恵まれていた。
 本作を小説に仕立てるにあたり、新吉は「持ちたる者」の側だろうと考え、事実そのように人物造形したのでした。
 だとすると――。もしかして新吉、理吉の心の闇を理解できないんじゃないか。そんな気がひしひしとし始めたんです。
 新吉は選んでやくざの道に進んだ人物です。が、理吉は違います。あくせく動き回るうち、気づけば悪の道に落ちていた人物です。立脚点がまったく違うんですね。
 なので、拙作においては、最後までしっくりいかぬ兄として描写しました。案外悪い奴じゃないと思うんですが、こういう陽性の人物、どうも谷津個人は苦手であったりします。
 

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