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1/26発売『小説 西海屋騒動』(二見書房)はこんな話⑧原典ではしれっと悪事を働く女、お柳

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 原典『西海屋騒動』『唐土模様倭粋子』において、主役級なのに今ひとつ影が薄いヒロインといえばお柳でしょう。
 三大主人公の一人である理吉の女なのに!
 この人物、とにかく薄幸です。
 高崎にある居酒屋の娘として生まれるも、奉公にやってきた理吉に感化されて十歳にして博打の味を覚え、十四くらいまでには理吉と男と女の関係になってしまいます。そして、色々あって理吉とともに駆け落ちを決意するも、その度の途中で拐かしにあい、売られる寸前のところである分限者に拾われて芸者として名を上げます。そうして江戸で生活すること幾年、なんと理吉と再会することになるのですが……。
 彼女を待っている運命は、とにかく過酷です。詳しくは拙作をご覧頂けると嬉しいです!
 ……なのですが。実は、原典と拙作のお柳の間に大きな違いがあることをここに説明しておく必要があると思います。
 原典におけるお柳、かなりサイコパス……というか、悪人然とした部分があります。
 軒先を借りた茶屋の仏壇に置かれていた大金をしれっと盗んでいたり、前述の通り、子供の頃から博打の味を覚えているという結構な不良娘として描かれているんですね。

 拙作においては子供時代の博打シーンは残していますが意味合いをかなり変え、金を盗むシーンはカットしています。
 なぜか。
 この改変が、わたしが作家として仕掛けた本作のギミックなんです。なので表面的なことを話すに留めましょう。
 すごく表面的なことを話すと、のちにお話しすることになるだろう、お蓮とのパワーバランスを考えての結果でした。
 このお蓮は西海屋を乗っ取った慶蔵の情婦にして妻ですが、この人物、とんでもなくあくが強いんですね。「金簪」なんていう二つ名があり、西海屋における九尾の狐のごとくに振る舞います。実は、慶蔵なんぞよりよほど悪党なんじゃないかという気がしないでもない人物なのですが、原典を読んでいた際、ちょっとお柳の人物像が霞んでしまったんですね。彼女を待っている運命から考えても、もう少し可憐側に寄せた方がいいんじゃないか、そうして造形したのが谷津版のお柳でした。
 今にして思えば、ちょい悪女のお柳でも、それはそれで可愛かったかもなあと思わないことはないですが……ぐむぐむ。ちょっと色々難しい。

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