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『雲州下屋敷の幽霊』(文春文庫)、表題作のお殿様の意外な一面

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 実はこれ、最近知ったことなんですけど……。
 いや、よくあるんですよ。本を書く際にはとにかく資料を探しまくって読みまくり、その上で人物造形を固めたりするのが常なのですが、一人の人間が蒐集するには、世にはテキストが溢れすぎています。というわけで、なんとなしに趣味的に手に取った一冊に、かつて自分がモデルにした歴史上の人物が登場し、顔が真っ青になるなんてことも……。

 拙作『雲州下屋敷の幽霊』における表題作に登場する、松平宗衍でその体験をしてしまったのです。

 松平宗衍、ある長身の力士に妖怪の扮装をさせて呼びつけた医者を道端で驚かすという、子供じみた悪戯をやっていた、という逸話があるのです。なんとこれ、松浦静山の『甲子夜話』に収録されてます。うわ、超メジャーな随録じゃないの……。

 この逸話だけ拾い出してみると、松平宗衍、ちょっとお茶目に見えてくるから不思議ですね。
 もっとも、本作で取り上げた設定の多くは他の逸話から頂戴しているため(メインモチーフである文身侍女も逸話そのものは存在します)大筋では問題なかろうとは思ってますが、もしこの逸話をわたしが知っていたら、宗衍の人物像はちょっと現行のそれとは違うものになっていたかもしれません。

 こういうことに出会う度、「ああ、もっと本を読むべきだった」と後悔するのですが、わたしも凡夫、また後悔するに決まっているんだよなあ……、と若干の諦めムードでおります。

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