桔梗の旗書影

『桔梗の旗』を作った際に考えたこと①

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 もう既に皆さんもお気づきと思いますが、明智光秀の息子・光慶を主人公にした本能寺もの歴史小説である拙作『桔梗の旗』(潮出版社)は2020年大河ドラマ『麒麟がくる』にびんじょ……もとい、商機を合わせ書かせていただいた小説です。なので、少し前に大騒ぎが起こってしまい戦々恐々だったのはここだけの話なのですが、結果的に大河ドラマに興味が集まったようで何よりでした。こういうのを炎上商法というのだろうか。
 それはさておき、若手にとって「本能寺もの」は鬼門です。数ある歴史小説の題材において、本能寺ものは俊英から大御所までが扱い手垢にまみれており、フィクションの世界ですらほぼすべての論点が出揃ったような錯覚さえ覚えます。もちろん、面白さにはいろんな方向があるので一概には言えませんが、いくらそれまで丁寧に作品を組み上げても、本能寺周りのロジックが見慣れたものであったり古い説の焼き直しであった場合、読者側に拍子抜けを与えかねないリスクを負うことになります。
 そして今、歴史学の知見へのリーチがしやすくなり、史学の方々の見解を耳にしたり目にする機会も増えています。かくして、陰謀論的な本能寺の変はなかなか受け入れられづらくなり、「光秀単独・突発犯行説」が人口に膾炙しています。

 という前提がある中で「新しいものを作る」という重圧、皆さんにもご理解いただけましたでしょうか。

 そんな難問に挑んでいたのが、二年弱前のわたしなのです。
 光秀を書いていただけませんか、というご依頼をいただいた際、新作を書くからには「やっぱり谷津の仕事だよね」と言われるような小説を書きたい。そして、これまで誰も見たことのない本能寺ものを書いてみたい。それこそ、読者さんの思考の間隙を衝くような……。と、色々と本を読んで考えまくった結果、ある一つの結論に達したのです。

「そうだ、光秀の息子を主人公にしよう!」
「んで、光秀の息子・光慶の存在が本能寺の変の原因になったという筋にしよう!」

 詳しくは本書をご覧いただきたいのですが、本書における発想の源は、ざっとこんなところでした。
 実際、ちょっと新しい本能寺の変となりましたYO。しかも今回ご用意したロジック、裏の取りようがないのでたぶん史学の方々からの文句は出ないはず……!

 つくづく、本能寺ものは大変だなあと思った次第……。でも、取り組むだけ跳ね返ってくるものもあるのだなあともほくそ笑んでいる次第です。

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