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『おもちゃ絵芳藤』(文春文庫)の「おもちゃ絵」ってなんじゃいという話

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 単行本版を刊行した際、多くの方からいただいた疑問がこれでした。

「おもちゃ絵ってなんですか?」

 ですよねー。
 ここのところ、どうしたわけかおもちゃ絵に関わる展示会が増えてきたこともあって認知が進んでいるものの、それでもどういうものかイメージの付かない方も多いそう。そこで今回は、めくるめくおもちゃ絵の世界についてご説明しましょう。

おもちゃ絵は幼年向け雑誌の付録みたいなもの

 みなさん、保育園・幼稚園の時、幼年向けの雑誌を買ってもらったことってありませんか。わたしは男なので、『てれびくん』などをよく買ってもらってました。確か女の子向けにもそうした雑誌があったと記憶しています。今でも、『小学8年生』みたいな雑誌がありますよね。
 ああいう雑誌には、あれがついてますよね。
 そう、付録です。
 大抵ああいう雑誌の付録というと、男の子は戦隊ヒーローものの合体ロボットを組み立てできるペーパークラフトであったり、漫画が読める小冊子であったり、あるいはキャラクターの顔が描かれたカードだったりします。女の子の場合は、女の子向けテレビ番組の小物を紙で再現したものや、小箱のペーパークラフトなどが中心でしょうか。今はどうなっているか分かりませんが、幼年向け雑誌だと大抵はそんな感じでした。
 おもちゃ絵というのは、まさしくああいう付録のようなものを指します。

おもちゃ絵色々

 浮世絵というと、美人画、相撲絵、役者絵などのイメージが強いですよね。あるいは『東海道五十三次』などの風景画を思い浮かべる方も多いんじゃないでしょうか。
 今で言う、有名人のブロマイドや読者モデル写真、風景写真といったものでしょうが、そればかりが浮世絵ではありませんでした。
 その代表格がおもちゃ絵なのですね。
 大人ではなく、子供をメインターゲットに据えた絵の一群で、今で言う百科事典のように色んな魚や虫の姿を一枚絵で描いたもの、山折り谷折りにすることで絵に動きを与えたもの、影絵の元絵、今でいうペーパークラフト(立版古・組立絵といいます)などなど、多岐にわたっています。
 つまるところ、子供の知識欲や遊興心をくすぐる絵。それがおもちゃ絵なのです。

おもちゃ絵は儚い

 さて、皆様に質問です。
 子供の頃買ってもらった幼年向け雑誌についていた付録、今もお持ちでしょうか。
 持っていらっしゃらないという方が殆どだと思います。
 いや、別に皆さんを指弾したいわけじゃありません。
 そうなのです。おもちゃ絵は、子供のおもちゃであるという性質上、残存状況が悪いとされています。
 おもちゃとしての存在理由を全うすればするほど破損し、捨てられる。逆に言えば現在まで残っているおもちゃ絵は、本来の目的に使われることのないまま、現代の日の目を浴びてしまった存在であるとすらいえるのです。
 恐らく、様々なおもちゃ絵が色々な版元から売り出され、買われていったのでしょうが、同時代の子供たちの手元に届き、しばらくの間遊ばれ、そしていつかは忘れ去られていく。それがおもちゃ絵の宿命とすらいえるのです。

儚いからこそ絵になる

 わたしは相当変わり者なので、儚いものに着目してしまいます。華やかなものではなく、非主流のもの。そして、誰に顧みられることのないまま消えていくもの。そうしたものたちをこそ、小説のテーマにしたいのです。どうもわたしは「諸行無常」の四文字に狂おしいほどの興味があるようです。
 そんなこんなの感覚から生まれたのが、拙作『おもちゃ絵芳藤』なのです。
 ぶっちゃけた話、歌川芳藤と聞いてピンとくるのは一部の熱心な浮世絵ファンだけです。ある研究者系の方に「芳藤の小説なんて、今後絶対出てこないでしょうね」と言われたくらいです。
 実のところ、芳藤は同時代的にはある程度有名な人でした。でも、現代ではその名は忘れ去られている。そこに、わたしの物書きとしてのセンサーが働いたのです。

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