【天狼院書店初心者講座2020年10月コース受講者向け】⑤普段の言葉で(でもちょっとよそ行きの言葉で)
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【注意】
こちらのエントリは、天狼院書店さんで開催中の「短編小説100枚を二ヶ月で書いてみる」講座参加者の方向けのエッセイです。参加していない皆様にもなにがしかに気づきがあるかもしれませんが、このエッセイは基本的に「初心者の方が小説を書き切る」という目的設定をした講座に向けたものでありますので、中級者、上級者の方がご覧の際にはそうした点をご注意の上ご覧ください。
【注意ここまで】
第二回講座の受講者の皆様、先日はまことにありがとうございました。
この講座は割と感覚的な話が多く、もしかすると皆さんが直感的に理解できなかったかも知れないところでした。なので、なおのこと、こちらのTIPSでも丁寧に話していこうと思います。本日のテーマは、「どういう言葉で書いてゆけばいいのか」についてです。
あんまり着飾る必要はない
皆さんは常日頃、家族や友達、クラスメイトや仕事仲間、取引先、店員さん、その他関わりのある皆さんと会話をしているのではないかと思います。小説を初めて書く人は、「小説には小説らしい文体があるんじゃないか」とお考えになって、手が動かなくなってしまう方もいらっしゃるのですが……。
いいえ、小説っていうのは、そんなに難しいものではないのです。
ややマニアックな話をすると、江戸時代末期くらいまで、文章と話し言葉に乖離のある時代がありました。ところが、明治期に入り、文章と話し言葉を一致させよう、もっといえば、話し言葉でもって文章を綴ろうという動きが起こり、これがメインストリームとなりました。かくして現在、わたしたちの話し言葉と書き言葉は限りなく近づいています。
なので、基本的には、皆さんの普段使っていらっしゃる言葉でもってじっくり書いてゆけばいいのです。
でも、確かに話し言葉とは違って、小説の言葉は何か違う気がしますよね。では、何が違うのかというと……。
・書き言葉の方が論理性が高い
・書き言葉の方が描写が多い
概ね、この二つに大別できると思います。
わたしたちって、話し言葉の際にはとにかく論理性の低い話をしています。どういうことかというと――。
「えっと、昨日、そうそう、12/10のことなんだけど、妻に水をぶっかけちゃったわけ。え? ああ、庭でザバーって水を巻いてたんだよ。そうそう、あのプシューってやつで。え? 決まってるじゃん、車を洗うためだよ。車にびしゃーってかけたら、妻が帰ってきてさ。それでびちゃびちゃーってなっちゃって!」
こういう、全体像のよく分からない話を展開していることがあります。
話し言葉には身振り手振りやお互いの了解事項などが存在するので、かなり色々な情報をすっ飛ばすことができます。そのため、話し言葉においては、「妻」という存在についてディティールを突き詰める必要は薄いですし、思いついたことをそのまま並べていき、最終的に全体像を浮かび上がらせるような言葉の並べ方でもOKなのです。
けれど、書き言葉については、ある程度の論理性が必要となります。たとえば、このように。
昨日の12/10、私は掃除をしようと、ホースを持ち出して車に水を掛けていたところ、家に帰ってきた妻に水を浴びせてしまいました。
という風に整理してやる必要があるわけです。書き言葉特有の「とっちらかり」を「まとめる」必要があるのです。
そしてもう一つ、大事なことがあります。
「描写する」ことなのです。
描写は小説の華
書き言葉とは違い、話し言葉は基本的に「特定の人物に向けられたもの」という前提があります。
えっ? 校長先生の談話は? 内閣総理大臣の会見は?
そう思われた方、実に鋭い。
校長先生の談話にしろ、内閣総理大臣の会見にしろ、その言葉には意図する範囲が存在します。校長先生の談話は基本的に全校児童・生徒を対象にした言葉ですし、内閣総理大臣の会見は(もちろん例外は山ほどありますが)日本に住む人々に受容されることを前提としています。(昨今では、記録メディアの発展によって話し言葉が書き言葉に近い振る舞いをしているという問題もありますが、このエッセイはその問題には踏み込まないことにします。)
それに比べて、小説はどうでしょう。
特にプロになると、特定のマーケットを睨むこともありますが、基本的に書き言葉はそのテキストが残る限り、様々な人の目に触れる可能性があります。変な話ですが、千年後、あなたのお書きになった小説が残り、誰かの目に留まる可能性だってゼロではありません。
そのために、話し言葉の前提となる「お約束」「発信者と受信者の了解事項」がほとんどないのです。
つまり、話し言葉よりも書き言葉の方が、丁寧に様々なディティールを語ってあげないとならないわけです。
そのために、小説には描写があります。
あなたの世界はあなたにしか見えないものだから
構想、プロット段階で、皆さんはご自分の書こうとお思いになる世界が見えてこられたのではないかと思います。けれど、この段階では、まだあなたの心の中だけでしか存在し得ないものになっています。
これを形にするために小説を書くわけですが、ここで皆さんの肝に銘じておいていただきたいのです。
あなたが書かないことには、あなたの世界は誰にも見えないのです、と。
そう、あなたが丁寧に語ってやらないことには、何もかもが読者側に見えません。執筆に慣れてくるとむしろ「書き込みすぎ」が問題になったりもするのですが、初めて小説を書く皆さんは、むしろ「書き込むこと」を強く意識してください。
主人公はどんな顔をしていますか? どんな格好をしていますか? どんな仕草をしていますか? どんなところにいて、今、どんなことに巻き込まれているのですか?
そうやって、あなたの想像にさらなる具体性を与えていっていただきたいのです。
そして、講座でもお話ししましたね。
具体性を与えること。それが、描写なのだ、と。
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