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『おもちゃ絵芳藤』(文春文庫)に出てくる絵師・歌川芳艶について

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 本日の『おもちゃ絵芳藤』人物紹介は、一章で強い陰影を見せた歌川芳艶です。では早速行ってみましょう!

史実の歌川芳艶

 国芳門下には様々な弟子がいますが、国芳の弟子たちは師匠の様々な得意を自らのものとして、それを延長していった感があります。本作主人公の芳藤も、師匠の戯画的な部分を引き継ぎ、自家薬籠中の物としていった風雅見て取れます。
 さて、国芳といえば武者絵です。そして、国芳の弟子の中で、武者絵といえば月岡芳年のイメージがありますが、もう一人、武者絵で名を馳せた人がいます。それが歌川芳艶です。
 活動期は(中断期もありながら)天保から慶応にかけて。この間、色々な絵を描いている人物ですが、何より武者絵の艶でもって知られ、一時は師匠の国芳をしのぐほどの人気だったとされます。
 ところが、数年間、絵師として活動できなかった時期があるとされています。素行が悪かったのを弟弟子たちに嫌われた結果だといいます。

本作における芳艶

 『おもちゃ絵芳藤』の中で、芳艶はかなり脚色がなされている人物です。彼が一時素行の悪さ故に絵が描けずにいた時期があるというのは史実ですが、『おもちゃ絵芳藤』で描かれているように長期には亘っていません。晩年期にはかなり旺盛に画業を果たしていた様子がうかがえます。
 本作において史実を枉げた描かれ方をしている理由は、まさに『おもちゃ絵芳藤』のテーマに関わる話なのですが、あえてちょっとネタばらししましょう。
 本作主人公の芳藤は、「絵を描く」という生き方を時折疑いながら、ふらふらと日々を過ごしています。そんな中、大きくよたつきながら、それでも絵筆を最後まで握り続けた芳艶は、ある意味で彼の人生のロールモデルなのです。
 本作は芳藤が一番の兄弟子として存在しています(史実においては上に結構いるんですが、ほとんどパージしています)。そんな中、師匠とは違う立ち位置で、それでも前を歩いている存在がほしいとなったとき、わたしの頭に思い浮かんだのが芳艶だったのです。 

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