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1/26発売『小説 西海屋騒動』(二見書房)はこんな話⑩キーマン・花和尚魯心

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 理吉を主人公にした『小説 西海屋騒動』において、特段目立った地位を占めるのが花和尚魯心です。
 色々あって高崎の奉公先から逐電し、その途中、騙されて身ぐるみ剥がされた理吉を救い、一時の宿を与え、さらには理吉のために勤め先まで紹介するという、あまりにも人がよすぎるお坊さんです。
 けれど、実は彼には秘密があるのですが……。
 実は原典ではこの辺りの因縁は一切隠されずに語られていきます。すべてを提示することで、読者にひやひや感を与える方向の作劇をしているのですが、わたしは理吉の一代記の体を作ったので、そうしたことはできません。
 そんなわけで、ここから先はネタバレとなるので、未読の方は読まないように。








 花和尚魯心は、俗名を嵐山花五郎といい、元は江戸の力士だったらしいのですが問題(喧嘩の末の殺人)を起こし侠客の道へ進み、信州松代でわらじを脱ぐに至ります。どうやらそこでの彼は義侠めいたやくざだったようですが、地元のやくざと対立、やがて、そのやくざと組んで悪行三昧をしていた町奉行、郡寒蔵に討ち入りをし、なんと果たしてしまいます。
 そしてその結果花五郎は松代を追われ、武芸の師匠から諭されて改心、得度して花和尚魯心となった後は理吉の義兄である新吉に武芸を教え、理吉を助けるに至るのです。
 ええと、ここからがややこしいのですが、魯心が殺した町奉行の郡寒蔵の実の子供が理吉なので……。つまり、理吉からすれば、魯心は親の仇になります。
 そして、理吉は魯心が仇であることに気づきません。そのため、二人は何も知らずに奇縁を結んでいた、というのが原典での二人の関係で、ラストの大団円の際、すべての因縁が理吉に明らかにされます。
 原典を読んでいる間はそんなに違和感がなかったのですが、いざ、現代の小説として書いてみると、この「奇縁」をどう表現するかに悩んだんですよね。神視点で描かれている原典なら、仇に命を助けられるという偶然もある種の「思し召し」というか「皮肉」程度に収まるのですが、理吉の物語にしてしまうと、やや強引というか、ご都合主義的なところが出てしまうんですね。端的に言うと、「魯心が知らず知らずのうちに己が殺した男の息子を拾う」という状況に無理がないかと。
 この辺りの調整についてはかなり難航を極めました。何でもかんでも魯心の計算通りではあまりにも理吉の人生が狭量になってしまいますし、かといって、「偶然でした」というのは無理がある。
 そんなわけで、ちょろちょろっと魯心が何かを知っていた、という線で収めました次第です。

 わたし個人は花和尚魯心の在り方、ちょっとむかつくクチです。
 あれだけのことをやっておきながらそれはないだろ、みたいな。
 昔やんちゃだったけど今は真面目にやってるから好感度が高い、みたいな。
 結局のところ、著者のわたし自身の反感が、理吉の最後の心情と共鳴して、個人的には理吉を最期の最期で理解してやることができてよかったな、そういう意味では、魯心に対して一個人としてむかつくところがあったのはよかったな、と心から思っています。

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