奇説無惨絵条々書影

谷津さん、賞に落ちたって? ねえねえどんな気持ち?

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 文藝春秋『オール讀物』主催の第九回本屋が選ぶ時代小説大賞の結果が発表され、川越宗一先生の『熱源』(文藝春秋)の受賞が決定しました。川越先生、おめでとうございます。

 光あれば影あり、拙作『奇説無惨絵条々』(文藝春秋)は落選という仕儀となりました。

 ねえねえ谷津さん、今どんな気持ち?

 落選作家の腹の内なんてそうそう聞けないと思います。というわけで、落選作家谷津が正直な胸の内を吐露しましょう。

 正直なところ、( ゚д゚)ポカーン というのがわたしの今の思いです。
 デビューしてからの賞というのは別に作家自身が応募するものではなく、気が付けばノミネートしていて(正確には『ノミネートしてもいいですか』と連絡が来ることが多い)、忘れた頃に受賞落選が決まるというものでして、あんまり実感がないんですよねえ。なんというか、読者さん一人一人の反応に一喜一憂する発売直後の胃のしくしく感と比べると、他人事感がすごくあるというか。とくにこの賞についてはノミネート回数四回という同賞の最多ノミネート記録を作っちまったというレコード持ちになってしまったこともあり、猶のことわたしの身辺は静かです。
 わたしの母親に至っては『めざせノミネート記録更新!』と昨日の段階で言ってきているくらいです。
 (売れる売れないは別として)適切な努力・鍛錬をしつづけることができる限り、作家は自分の腕にその身命を預けることができるものです。個人事業主・芸人として売り方に関していろいろと考えなくてはならないのは事実ですが、職人として見たとき『書いている己』を肯定することができるなら、わたし個人は全くブレるところがありません。結局のところ、己の腕を信じ、己の積み上げたものを抱えながら歩いていくのが作家なのです。そして、そんなシンプルな世界を愛しているからには、今日も明日も明後日も、わたしは小説を書き続けるのです。

 と、わたし個人の思いはさておき、周囲の方々には申し訳ないという思いがあります。
 わたしを支えてくれている家族、わたしに期待をかけてくれる担当者さんや本を作るためにご助力くださる皆様、本を展開してくださる書店さんや取次さん、いつも推してくださる評論家の先生方、そしていつもわたしの本を読んでくださり、応援してくださる読者の皆様には申し訳ない仕儀となりました。
 何より、原稿を書くにあたりずっと伴走してくださったIさん、本を作ってくださったMさんをはじめとした『奇説無惨絵条々』に関わってくださった皆様にはまこと申し訳なく思っておる次第です。

 と、こんなことがしれっと言えるようになったわたし、随分大人になってしまったなあ……、っていうか、随分丸くなってしまったなあ、というのが、わたしの最終的な感慨でございます。

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