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1/26発売『小説 西海屋騒動』(二見書房)はこんな話⑨原典のほうが烈女、お蓮

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 原典『西海屋騒動』『唐土模様倭粋子』において、特に印象を多く残すのが、慶蔵の情婦にして妻であるお蓮でしょう。
 そう、原典のお蓮は、とてつもない烈女なのです。
 原典におけるお蓮は、かなりの活躍を見せます。
 経歴は『小説 西海屋騒動』に描かれるとおりですが、そちらのほうではお蓮は男に寄りかかり、己の人生を開こうとする女でした。しかし、原典においてはかなり積極的に自ら幸せを奪い取りに行った女でした。読みようによっては、慶蔵の西海屋乗っ取りはお蓮が主犯だったんじゃないかとすら思えます。
 もし、わたしがもう一度だけ『西海屋騒動』で小説を書いてもいいよといわれたなら、お蓮を主人公にしますね。男どもを手玉にとって、心地いいところを選んで泳ぎ回る、刹那的な女。ね、格好いいでしょう?

 ではなぜ谷津はその筋を棄てたのか。
 色々な理由はあるんですが、お蓮を主人公にしてしまうとやくざどもの戦いが殆ど書けなくなっちゃうからなんですね。今作はやくざの群像も面白さの一つ、ということで、ちょっと日和って理吉を主人公にしてしまいました。
 そして何より、原典に存在する『デレ』をどう解釈するのかという問題にぶち当たったからなんです。
 拙作における「黒旋風の章」で描かれたお蓮の行動はほぼ原典に即しているのですが、男を手玉に取った烈女、というイメージでは語り尽くせない面がある行動なんですよ。原典には心情描写はほとんどなく、その心の内は読み手・聞き手側が想像してやるしかありませんが、わたしはこのお蓮の行動から、彼女の純粋さ、というか、裏表のなさを感じたんです。
 裏表がないというのはいいことのように聞こえますが、悪党だらけの場においてはむしろ救いのない個性です。
 案外、お蓮の悪辣さは、後天的なものだった――?
 そんな解釈の結果、原典に見られたような、悪辣非道なお蓮は消え失せ、刹那に生きる猫のような女が誕生した、というのが、おおまかなお蓮誕生のいきさつになっております。

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