信長様はもういない書影

『信長様はもういない』(光文社文庫)は蒼天航路オマージュ?

【PR】

 単行本刊行当時、親しくさせていただいている編集者さんから、『信長様はもういない』(当時は『信長さま~』)についてこんなご意見を頂戴しました。

「谷津さん、本作って、『蒼天航路』のオマージュですよね」

 なぜわかった!?
 ご存じない方のためにご説明すると、『蒼天航路』というのはモーニングで連載されていた三国志漫画で、基本的には悪役・敵役として描かれることの多い魏の曹操の人たらし・改革者・芸術や技術の保護者といった面にフィーチャーした作品です。
 実を言うと、学生時代、わたしは大学の勉強そっちのけで読んでいたくらい『蒼天航路』のファンなのです。

 実はわたし、『蒼天航路』の魅力は、同時代の傑物たちが曹操というあまりに大きな”時代の災厄”にどう立ち向かっていったかを描く群像ものとしても読める点だと思っているんですよ。
 本作で描かれる曹操イズムはあまりにも苛烈で、当然付き従えない人物もたくさん出てくるわけです。そうした人々の反逆の人生を凝縮して見せてくれるところに、学生時代の谷津は唸らされてしまっていたわけです。

 さて、翻って『信長様はもういない』です。
 本作は、織田信長という巨大なカリスマがいなくなってしまった後を描き出したお話なのですが、一方でそれは新たなカリスマ(というよりはこの場合は秩序といったほうがわたしのイメージには沿うのですが)である豊臣秀吉の出来を描いた作品ともいえるわけです。織田信長の時代に生き、新たな時代に染まり切れない池田恒興やその仲間たちは、新たな秩序の中に組み込まれながらも、心のどこかで反逆している面があるのです。そういう意味で、『蒼天航路』の中で描かれる反逆者たちの心情に近い面があるのではないのかなーと思っている次第です。

 まあ、実を言うと、本作で描いた森武蔵、もちろんわたしなりの味付けを施しつつも、『蒼天航路』の馬超がモチーフだよね、という気はしますけれども。

【一応注意喚起】
 創作をやっておられる方でないとこの感覚をご理解いただくのは難しいのですが、剽窃・パクリとオマージュは似て非なるものです。
 いかなる創作物も無から生じることはありません。例えば、歌舞伎の「○○五人男」がやがてスーパーヒーローもの(○○レンジャーとか○○マンみたいな五人組のあれです)に仕立て変えられ、さらにそれが一時代のガンダムのキャラクター配置に影響を与え(Gガンダム~ガンダムW辺りが分かりやすいかと)、女児向けの漫画・アニメなどでも援用されています。創作物は、著者が過去の創作物のエッセンスを組み合わせ、さらにそこに著者の創意を加えることにより成立するものなのです。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?