『新歴史・時代小説家になろう』第29回他ジャンルと「混ぜる」こと
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いきなりなんですが、おのれ額賀澪(敬称略)。
ってことは、このnote、額賀澪さんのやっておられる講座の学生さんも見ているってことに……。
まあそのなんだ、たいしたこと書いてないけど、参考になればこれ以上のことはないぜ、ということでなにとぞなんだぜ。
さて、今回は、「混ぜる」というお話です。
歴史時代小説という「ジャンル」の内実
ミステリというジャンルには、プロットレベルからジャンルの特徴が付与されています。ミステリのお約束である「謎の提示、調査、フェアな解決」が充足されない限り、「これはミステリではない」ということになってしまいます。
青春小説はどうでしょう。青春小説にも主人公の年齢が青春に収まる範囲に設定づけられ、また青春ならではの葛藤や戦いが主軸になるという点において、プロットにジャンルの特徴が付与されているといえます。
では、歴史時代小説はというと?
結論から申し上げると、歴史時代小説は、プロットレベルにおけるジャンルのお約束は存在しません。歴史時代小説をそうたらしめているのは「劇中年間が過去であること」という設定レベルでのお約束だけで、プロットにまで深く食い込む「ジャンルらしさ」は存在しないのです。
歴史時代小説はウイスキー樽である
歴史時代小説はウイスキー樽である、というのがわたしの持論です。
どういうことか。
歴史時代小説というジャンルは、「過去を舞台にしていること」という、プロットの外側に存在する「樽」によってそれらしさが担保されています。
これが何を意味するか――。中に何を入れてもいい、ということです。
歴史時代小説は、他ジャンルの包摂をしやすいんですよ。
たとえば、歴史時代小説にミステリを投入します。捕物帖の完成です。
たとえば、歴史時代小説に冒険小説を投入します。冒険歴史時代小説の一丁上がりです。
たとえば、歴史時代小説に青春小説を投入します。青春歴史時代活劇の誕生です。
歴史時代小説というジャンルは中身の特質を言うのではなく、物語の外縁部に特殊性があるがゆえ、このように他の文芸ジャンルや物語ジャンルと混ぜてやることで新たな味を出すことができるのです。
古今東西、歴史時代小説ジャンルにおいては(内部の作家たちの試行錯誤はもちろんのこと)外部の新規参入作家たちによって新たな風が生まれてきました。これはまさしく、歴史時代小説ジャンルの特殊性が物語の外縁部にある証左の一つといえましょう。
樽から香りを出す
しかし一方で、だからこそ歴史時代小説は厄介とも言えます。
確かに、過去を舞台にして青春小説を書けば、青春時代小説は書けます。けれど、そこに描かれている主人公の葛藤や壁が現代の人間と同じであればあるほど、「だったら現代小説として書けばいいじゃん」となりかねません。実際問題、世に出ている本の中にも、「別にこれ、現代小説でいいんじゃあ?」という作品はなきにしもあらずですし、もしかしたらわたしの本もどこかでそう言われているかもしれません。
ならば、どうしたらよいのか?
たとえば、ミステリと混ぜる場合は、劇中年間にしか成立しない道具を使用したトリックや、その当時の心象風景の中でしか考えられない動機を想定する、といった解決法があると思います。つまるところ、時代設定を過去に置いた積極的な理由を考え、上手くミステリのロジックと絡めてやるといいわけですね。
青春小説と混ぜた場合も同様です。劇中年間の主人公ならではの青春の悩みや壁を考えて、それをプロットに反映させるとよいのです。
あくまでイメージの話ですが、この作業、樽の香りを酒に移す、ウイスキーの熟成に似てます。中に入れるものに、歴史時代小説の雰囲気というフレーバーを乗せて味わいに付与することで、現代小説とは違う香りをつける。そんなイメージです。
そこで大事になるのは、「劇中年間ならではの出来事や事物とは何か」を知っていること、あるいはそれを考えること、なんですね。
時代考証がどうの、歴史的整合性がどうのといいますが、歴史時代小説の勘所は、「なぜその時代を描こうとしているのか?」という問いを突き詰めた向こう側にあるのだとわたしは考えています。
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