奇説無惨絵条々書影

【天狼院書店初心者短編2019年12月コース受講者向け】⑨最後まで書き切ろう

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【注意】
 こちらのエントリは、天狼院書店さんで開催中の「短編小説100枚を二ヶ月で書いてみる」講座参加者の方向けのエッセイです。参加していない皆様にもなにがしかに気づきがあるかもしれませんが、このエッセイは基本的に「初心者の方が小説を書き切る」という目的設定をした講座に向けたものでありますので、中級者、上級者の方がご覧の際にはそうした点をご注意の上ご覧ください。
【注意ここまで】

 はい、2019年12月コースを受講の皆様、二か月余り大変お疲れさまでした。中には期間中に書き切れた方もいらっしゃるでしょうが、書き切れなかったというあなたもいらっしゃるはずです。なぜって? 実は、「二ヶ月で一つの短編を書く」というのは(仕事を持ってらっしゃる方からすれば特に)かなりハードルの高い目標設定だからです。こう言っちゃあれですが、できた方はすごい方ですし、できなかったとしてもそれはある意味で仕方がない、ともいえるわけです。
 とはいえ、できることなら、この講座に参加してくださった皆様には、なにとぞ最後まで小説を書き切っていただきたいなあと思っております。

 なぜか。
 まず第一に、小説というのは書き出しからピリオドまでのすべてでもって成り立つ構造物だからです。
 えっ? あの人気作家とかあの巨匠にも未完作品があるけど名作扱いされているぞ? それはその作家さんが人気作家・巨匠だからです。実際、そうした作家さんにはいくつもの完結作品があることをお忘れなきよう。
 小説というのは、書き出しで提示された出来事が何らかの形で落着するところまでを描くものともいえます。なので、落着したところまで描いてやらないと、「小説を書いた」ことにならないのです。実際、小説を書いてらっしゃる方の中に、長編の書き出しを少し書いただけで投げ出し、また別の小説の書き出しを書いては投げ出し……というムーブをなさる方がいますが、これは止めましょう。そんなことをいくら繰り返しても、序盤の書き方がこなれるだけで、全体の構造を俯瞰しながら場面やセリフを描くという、小説を書く際に求められる能力が成長しないままとなってしまいます。

 また、実は小説を書く楽しさがラスト近くにあることを指摘しなければなりません。
 小説のラストというのは、色々な要素が一つの結末に向かって収斂してゆくものでもあります。
 皆さんは『ぷよぷよ』というパズルゲームをご存じでしょうか。ご存じでない方は以下の動画をご覧いただければと思うのですが、

 同じ色のぷよ(丸いスライム状のいきもの)を四匹隣接させると消滅するのを利用したパズルです。
 このゲームの爽快感に「連鎖」と呼ばれるギミックがあります。一つのぷよを消すことによって、他のぷよに影響を及ぼし、何度も何度もぷよが消える現象が続くことを指すのですが、小説の終盤はこれを人為的に起こすようなものなのです。これが上手く決まった時は爽快ですよ。
 それにそもそも、「長く取り掛かっていた作業から解放される」ということ自体がある種の快感だったりします。ほら、あれですよ。受験がすべて終わった時の爽快感です。結果はまだ出ていないのに、やり切ることをやって空っぽになったあの感じ。大人になると、ああいう経験、しにくいですよね。ああした感覚を味わうことができます。
 実は「この小説世界から離れたくない」という気持ちに襲われたりする方も出てくると思うのですが、そうした方はすっかり小説執筆にハマっている方なので、今後とも小説を書いていただけたら嬉しいです。

 きっとこの講座を受講した方の中には、「まだ書いてる途中だけど、小説を書くことの何が楽しいのか分からない」という方もいらっしゃるかと思います。そのものの感じ方そのものを否定することは誰にもできませんが――。とりあえず、せっかくですから「小説を書き切ってみた」という経験をしてみませんか? というのが、2019年12月開講コースを受講してくださった皆様への、わたしなりの最後のご提案となります。

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