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谷津はいかにして『鎌倉燃ゆ』(PHP研究所)で北条義時を書いたのか②

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 前回のあらすじ
 PHPさんから北条義時の短編を書いて欲しいと依頼があり、三秒で受けた谷津。しかし、北条義時は短編として書くには見せ場がないのではと判断した谷津は……?

 そんなわけで、結構悩んじゃったんですよ。
 鎌倉武士の中にあって、北条義時は武芸に優れているという逸話がなく(もしあったなら、『吾妻鏡』でこれでもかと喧伝されているはずですがそんなことはなく)、大将の身辺警護や自らが総大将になることも多く、若い頃もそんなに目立った武勲がある人ではありません。だからこそ、江戸から近代にかけては「謀臣」として描かれたのです。
 つまるところ、スポット的な活躍を描くという短編歴史小説の手法はなかなか採りづらいのです。しかも、わたしは今回、「謀臣」ではなく「普通の人」を書きます、と版元さんと約束したのですからなおのこと。
 そこでわたしが採ったのは……。「扱う時間軸を長くすること」でした。
 歴史小説には「扱う時空を長くする」アプローチ法があります。現代小説は基本的に主人公の動向が現在進行形で描かれる場合が多いのですが、ある種の歴史小説はめちゃくちゃ長い時空を少し離れた視点から描き出す、そんな手法を採るのです。これ、下手に採用すると歴史の教科書みたいになっちゃいますし、史実をなぞっただけのものになってしまうので大変恐ろしいのですが、今回の企画は謀臣として広く知られている北条義時を普通の人として描くという外連が既に存在するので、「時空を長くする」テクニックを用いても、おそらく教科書通りにはなるまいという計算がありました。

 と、ここで、わたしは大変打算的な計算をしました。

「待てよ。ならば、鎌倉幕府草創期の流れを義時の目から眺める短編を仕立てれば悪目立ちするんじゃないか?」

 アンソロジーは戦場です。
 先輩作家さんたちが珠玉の如き作品を上梓してこられる中、一番の若手であるわたしも埋没するわけにはいきません。
 そして、短編となると、大抵はスポット的な活躍を描く作品が並ぶはず。ならば、わたしは先輩方の各作品の綴じ紐になる一篇を書くことで、アンソロジーにおいて独特の地位を得ることができるのではないか――。

 と、そんなこんなで、方針が決まったのですが……。

 実作が大変でした……というのは次回の話ということで。

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