『雲州下屋敷の幽霊』(文春文庫)の恐怖とは
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本書、連載・単行本刊行時はホラーのつもりがまったくありませんでした。というわけで、ホラー的な売り出しをしている今、「そういう読み方があったか」と我ながら驚いています。
えっ? 読み方っていうのは作者が考えるものなんじゃないの? って?
まあ、ある程度はそういう側面もありますよ。
わたしも執筆時には「おおむねこういう読まれ方がされればいいなあ」と思っていたり、「ああいう読まれ方を想定してこう書こう」みたいな狙いはあります。けれど、読み方というのは基本的には読者さんが発見するもの。もちろん著者の狙い通りに読んでくださる読者さんもいますが、小説に作者が考えもしなかった要素での読みをしてくれ、別文脈で楽しんでくださるなんてこともよくあります。本作はまさしくそんな僥倖に恵まれた一作といえます。
そんなわけで、なぜ本作がホラーとして読めるのか、よく分かっていないんですよ(笑)
とはいえ、後になって分析してみると、きっとこれ、「江戸時代という狭隘な時代」の圧のおかげですよね。
江戸期は比較的安定している時代ではありますが、社会からの「こうあるべき」という圧力が強かった時代でもあります。「こうあるべき」から一度離れてしまうとなかなか元には戻れません。現代日本も再チャレンジが容易ではない社会ですが、江戸期はもっと再チャレンジの難しい社会であったといえるかもしれません。
だからこそ、無理が利きますし、恐るべき事態が進行してても逃げ出せない。己の居場所にしがみつきながら忍従するしかないという哀しみがある気がしています。
この「逃げ場のない」感じが、本作に漂うホラー感の正体なのでは、そんな気がしています。
ということはなにか、書きようによっては、江戸期そのものがホラーということに!?
いやいやいやいや(笑)
などと自己分析するものの、結局未だに今ひとつ理由に辿り着けないのでした……。
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