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『雲州下屋敷の幽霊』(文春文庫)と江戸の昏がり

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 様々な場所で話しているのですがわたしは『佐武と市捕物控』(石ノ森章太郎)が好きで、何度も読み返しています。あの作品にある粘着質な闇というかダークな色合いが凄く好きなんです。初期のいかにもヒーロー然とした佐武と004みたいな市コンビも好きですが、後に至って頭身が伸び、道理を弁えるようになった佐武と年齢を重ねたがゆえの老獪さが滲む市のコンビも個人的には好みです。
 江戸は必ずしもユートピアではないんですよ。
 二昔前、地上波で放送されていた時代劇だと皆笑顔で男も女もちゃきちゃき働いていますが、そんなに甘い場所ではありませんでした。まあ、社会保障が全くない時代ですから、金を貯めておくか、相互扶助の精神でやっていくしかなかった、というのが実際の処だったでしょう。恐らく、わたしのようなコミュ障は一月もしないうちにコミュニティから弾かれて路頭に迷っていたことでしょう……。そんな江戸の姿を苦みと共に描き出していたのが『佐武と市捕物控』でした。
 わたしの『雲州下屋敷の幽霊』は、そんな江戸の昏がりを描いた小説でした。もちろん、石ノ森章太郎先生の如く真っ暗な世界に手が届くはずもない。けれど、自分なりにその道を突き詰めてみたい……。そんな野心からスタートしています(そういう意味では、本作のパイロット作となる『しゃらくせえ 鼠小僧伝』(幻冬舎)や後に続く『小説 西海屋騒動』(二見書房)も)。

 たぶん、わたしは「昏がり」が好きなんですよ。

 というわけで、今後とも折を見て「昏がり」を描いていくつもりです。

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