#エッセイ『笑いと蜜の味』

 先日テレビのBSフジチャンネルで『クイズ!脳ベルSHOW』という番組を観ました。この番組はいつも夕食後の風呂上がりに何となく観ている番組です。僕がこの番組の気に入っているところは、往年のタレントが沢山回答者として出演していて、“おお~懐かしい人だ・・”と思わせてくれるところです。そして司会がお笑い芸人“ますだおかだ”の岡田圭右氏で、この人の番組進行がまた面白いのです。年輩のタレントたちを上手に手玉に取りながら笑いも取るというその手腕はかなり見ものです!この番組のもう一つのお気に入りのところは、出題される問題が僕の世代にとって丁度いい内容なのです。昭和の後半から平成の初めの簡単な時事問題や、芸能界の出来事などの少しユル目の問題ですので、こんな僕でも比較的ポンポン答えられるのが観ていて心地いいのです。そして時には回答者が少し『う~ん!』と言いながら唸っていたりするのを見るのもまた面白いです。この番組を観た後には“クイズ番組はこうでなくちゃね!”と思いながらいつも布団に入ります。
 前回の放送でもそんな感じを楽しもうと思って観ていたのです。その日は回答者としてクリス松村氏が出演していました。テレビの中で見るクリス氏はいわゆるお姉キャラでかつ中々頭が切れ、コメントの面白い人だと思っています。この日の番組の中でも冒頭からチョッとハイテンションでそれはそれで面白かったのですが、“事件”はすごろく形式のクイズの中で起きたのです。そのコーナーは“クイズ!すごろく大逆転”というコーナーで、早押し問題に答えて正解するとサイコロを振り、その出た目の数だけすごろくのマスを進むというコーナーです。その止まったマスに書かれている指示で点数がプラスにされたりまた、他の人の点数を横取りしたり、ひどい時は場所が移動したりします。クリス氏はそのコーナーの一問目から早押しで正解を出し、サイコロを振ると6の目が出ました。『ヤッタァー!』と言って喜んでいると、司会の岡田氏が『1,2,3,4,5,6・・ハイ!』と言ってコマを進め、そのマスの指示を見ると“6マス戻る”と書いてあったのです。これもこの番組でよくある事ですので、“フムフム”と思いながら観ていたのですが、その後がチョッと見ものでした。周りの出演者より何回も多く答えるのですが、その度にサイコロを振って様々な理由で振り出しに戻るのです。クリス氏は笑顔で『あらやだ~!(笑)』と大騒ぎをし、岡田氏が気の利いたコメントをして番組的には盛り上がっていました。何回もサイコロを振って一つも動かないその様があまりの可笑しいので思わずテレビの前で大笑いをしてしまったのです。
    ここ最近であんなに笑ったのは久しぶりでした。普段の生活でも笑うという事はもちろんありますが、その多くはちょっとした微笑みで返事を返したり、時には相手に悟られない事を気にしながら愛想笑いをしたりといった感じで、腹の底から笑うという事がこの数年なかったように思います。大いに笑った後に思ったのですが、笑うと何だか気持ちが軽くなるのですね。心なしか自分の体重も軽くなった気がするのです(もちろんそんな事は当然無いのですが)。よく医療関係者が言っていますが、笑いは確かに体にいいそうです。近年では病院のリハビリなどでも落語などを聞かせたりする事があるそうです。やはり“病は気から”というのは本当なんですね。科学的な因果関係はまだほとんど解明されていないようですが、笑うという事が患者の回復を助けるのは確かなようです。笑うという事で体の細胞がいい方向に活性化されるのでしょうか・・。そこはよく分からないのですが。
    今回の僕の笑いは、人の失敗や不運を見て思わず笑ってしまったもので、自分でも如何なもんかと思うのですが、そこはテレビのクイズショウですので大目に見てください。自分でも大笑いをした後にちょっとバツの悪さを覚え、その後味の悪さは何だろうかと考えてみたのです。それはやっぱり人は“何をやっても上手くいかない事がある瞬間がある”という事がどこかで僕自身が自覚しているからだと思ったのです。その日の番組の中ではクリス氏がまさにそんな状態だったのですね。まるで神に見捨てられたかの様な状態です。彼はテレビのクイズ番組という事をよく分かっているから逆にその状態を楽しんでいる様にも見えました。クリス松村氏は自分の不運を逆手にとって笑いに変えて場を盛り上げることが出来る人なんですね。ある意味大人です。だからこそ気兼ねなく笑うことが出来たのだろうと自分に言い聞かせてみました。

    ここで少しだけ横道にそれますが、運の悪さという事で自分の人生を振り返ってみると、何をやっても上手くいかない日というのが年に何回かあります。それを強く感じる瞬間は仕事の最中に起こりがちです。そんな時はやることなすことに予想外の失敗や事件が立て続けに起きたり、嫌な連絡が重なったりします。僕の経験では、朝一で会社の仕事をしている時に一つトラブルの連絡が入るとなぜか不思議な事に立て続けに二つ、三つと、トラブルの連絡が入ってきたりするこという事があります。しかも一つ目のトラブルの内容を電話で聞いている最中に、自分宛の電話が同時に何本か入り、メモ書きで“○○さんに折り返しTELしてください。緊急だそうです。”というメモに相手の電話番号までご丁寧に書いてある物を渡されると、その場で今電話越しに話をしている事も頭から吹っ飛びそうになります。これは本当に不思議な現象で、トラブルや間違え、ミスなどは仕事につきものなのですが、同じ量のトラブルが仕事上で起っても“せめて別の日に連絡してよ!”と思わず叫びたい気持ちになります。そして別の日には会社の同僚が同じような目にあっているという事も時折見かけます。
   この運の悪さを集中した仕事のトラブルという観点のみで考えるなら、会社の仕事とは不思議なもので、みんなで大騒ぎをしながら最後にはなんとか収束させることが出来るのですが、そのトラブルにきちんと向き合って処理を進めると、今まで見えていなかった仕事のカラクリやあまり意識をしていなかったルールが別の角度から見えてきて仕事に対する理解度が深まったりします。それらの事はルーチン通りに普通に仕事が流れていれば知らなくてもいい事だったりするのですが、実はそのような自分の仕事をする上で基本的には知らなくてもいいような事を身に付けた瞬間に成長しているのかもしれないと密かに考えています。トラブル解決のために納期等を短縮する目的で普段なら連絡をする必要のない工場の生産担当者や仕入れ先の担当、または社内の業務課等と話をし、そこで初めて工程の組み方や仕入れにかかる期間の理由を知ったりします。間違えが無ければ工場に依頼をかけて生産のリードタイムさえ取れていれば知ることも無い、もしくは知らなくてもいい事を知るわけです。それは、自分の仕事についてトラブル以前より“包括的に理解が深まる”というご褒美になるわけです。結果的に今までは携わることのなかった人たちと知り合いになったりして、職場での人脈が広がるなんて事もご褒美の一つですね。それでも多くの場合はそんな事は思わずに、要らに事に時間を費やしたと嘆いたりするのですが・・(笑)。そういった意味では仕事の失敗はスキルアップという名のダイヤモンドの原石なのかもしれませんね。余談ですが・・。

    話を元に戻します。笑うという事は確かにとても気分がいい事ですが、人の不幸を見て笑うというはやはりちょっと考えてしまいますね。よく『人の不幸は蜜の味』と言いますが、もしかしたら笑いの半分くらいはそんなものなのでしょうか。人の滑稽なさまを見て笑うというのも、よくよく考えるとやはりばつの悪さを感じますね。お笑い芸人のいい所は、その滑稽さを一つの芸に仕上げているところなんでしょう。彼らの中の何かの失敗談などを巧みな話術を使って笑わせるという所に凄さがあるのかもしれませんね。人を傷つけない安心した笑といった処でしょうか・・。そんな彼らもネタが手詰まりになってくると特定の人に恥をかかせる様な内容で笑いを取りに行きます。そんな話は聞いていても何だかやはり気分が悪いですね。ただ、笑いにはどうしても毒のある一面は否めないとも思っています。そんな事を聞いて楽しんでいる自分がいる事も確かですからね。しかし笑ってもいい事と、笑っては失礼な事なんかをいつも考えていたらそれこそ人生はつまらない物になってしまいます。時には大笑いもした方がいいですが、出来る事なら一緒に笑ってくれる人と自分自身がやってしまったバカバカしい事に気持ちを共有して笑い飛ばすなんていうのが一番気持ちいいのかな、と思っています。
    久しぶりに大笑いをしたので、笑うという事について考えてしまったのですが、自分の生活の中では自然体で笑えるというのはやっぱり幸せな事なのだと思います。

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