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サービスは「ユーザーの創造性」によってグロースする

はじめに

TimeTree代表取締役の深川です。

このnoteは会社としての情報発信というよりも1個人としてTimeTreeという会社をやりながらこれまで悩んできたこと、反省したこと、気づいたことという観点で書いていきます。

ありがたいことにTimeTreeは、全世界で4500万登録ユーザーという規模で利用者が広がっています。日本ではTVCMなどもしましたが、海外ではほとんどマーケティング費用もかけていません。

グロースのためにやったことはもちろんたくさんあるのですが、その中でもこれまであまり語ってなかった「個人的なこだわり/仮説」について書こうと思います。

それは「ユーザーの創造性」を信じること、それをグロースのリソースとして理解し積極的につきあっていくことです。

消費は創造。ユーザーは「どう使うか」で自己を表現する

商品の生産企業と消費者という役割を考えた時に「消費者は企業が考えた商品をそのとおりに受動的に消費する」というイメージってあると思うのです。

でも本当にそうでしょうか?自分たちを消費者側で考えた時に「受動的に消費」しているだけなのでしょうか?

ほとんどの人が「自分なりに工夫して商品を言わば転用している。その工夫に喜びを見出している」のではないでしょうか?むしろ商品本来の価値を享受するのと同じくらい、自分流に工夫する創造行為に価値を感じているのでないでしょうか?

例えば、サイゼリヤで自分なりの調味料のアレンジを考える、それを誰かに教えてあげる。どん兵衛を10分待ってから食べる。などなど。卓上食器乾燥機がプラモデルの塗装乾燥に最適だとして話題になった例もありました。

フランスの哲学者ミシェル・ド・セルトーの書「日常的実践のポイエティーク」には「ルールを押し付けられる側であるかのように見える消費者」が、身の回りにあるものから新しい使い方を見つけたり別のもので代用したりして「なんとかやっていく」という日常的な実践の創造性が描かれています。

セルトーいわく、それは「あるもので機運をとらえる」ことであり「どう使いこなすかによって自己を表現する」ことであると。

企業側が「こういう商品です」と規定したものを「どう使いこなすか」は消費者ひとりひとりの自己表現なのです。そして自己表現とは楽しく魅力的なものです。

この「創造の楽しさ」を考慮し、そこも踏まえて提供することがサービスを「ユーザーと一緒に」育てていくことになるのでは?というのが僕の考えです。

わかりやすい制限が創造の楽しさを引き出す

「ユーザーによる創造の楽しさ、自分らしく使うことによる自己表現」はどのように生み出せるのでしょうか?

ひとつは「いい感じの制限」だと思います。「なんでもできます!」と言われたら「どうやって使おうかなー」という気持ちは沸き起こらないのです。

Twitterは「140文字しか」投稿できないし、TikTokも最初、動画の長さ上限は「たった15秒」でした。だから、その中で何を表現しようか?という創意を喚起します。

TimeTreeは「グループでカレンダーを共有できる」だけのアプリとしてリリースしました。

予定を共有するなら、人対人のネットワーク型の方が便利ですし、整合性もとれます。「グループで共有できる」ということは「グループでしか共有できない」という制約です。

さらに「グループで使えるのだから、画像もファイルも共有できた方が便利なのではないか?」というアイデアもありましたが「予定だけ」に絞りました。

その方がわかりやすいし、わかりやすい制限だからこそいろいろな使い方が生まれるのではないかと期待したのです。

作り手からの明確な提案が創造性を引き出す

もうひとつは「使い方はみなさんで考えてください!」ではなく、「作り手としての提案」をはっきり明示することだと思います。

これも制限に近いのですが「どんなソースをかけても美味しいです!ご自由に!」と言われるより「わさび醤油がおすすめです」と言われるから、「それもいいけど、ちょっと今日は塩で食べてみようかな」という気持ち=創造性が喚起されるのではないかと思うのです。

昔の僕は、この「作り手としてのおすすめ」を絞り切る勇気がありませんでした。

例えばターゲットユーザーを絞りきれず「こんな人もあんな人も、日本国民全部ターゲットです(ちょっと極端ですが)」と言ってしまっていました。でも「家族で使うのがおすすめです」と言い切ってしまうから「家族の人」にはわかりやすく伝わり、一方で「ということは、xxxでもこうすれば使えるのでは?」という創意を喚起するのです。

ターゲットユーザーを絞るということは、ある意味で「ユーザーさんの創造性を信じる」ということだと思っています。

「こちらが決めた通りにしか消費者は使わない」なんてことはない。人はそんな受動的ではない。みんなに創造性があり、みんな創造を楽しむのです。

TimeTreeでの「ユーザーさんの創造性」

TimeTreeでもいろんな使い方が生まれました。僕がお問い合わせ担当していた頃、ひとつのカレンダーに参加できる上限人数は20人でした。

ある頃からそこに対して「100人にできないですか?」というお問い合わせが出始めました。ユーザーさんに「なぜ100人にしたいのですか?」と話を聞いていくと子どものサッカーチームなどスポーツチームのみんなで使いたいとのことでした。

まったく想像してなかったかといえばそういうわけでもありません。

きっと、そんな使い方も可能だと思ってはいました。お問い合わせを受けて検討し、上限人数を100人に増やしました。それから、お問い合わせをくれた人全員に上限の変更を報告し、さらに「詳しい使い方を教えてください」とインタビューをしに行きました。

そのインタビューを記事にして、アプリ内でコンテンツとしてユーザーさんに共有しました。そこからまた使い方が広がります。

こういうことを繰り返しながらユーザーさんの創意工夫を集めたページが「みんなの使い方」です。

前述のサッカーチームだけでなく、いろいろな使い方が生まれました。

毎日の献立を記録する方、ご家族やペットの通院や服薬を記録する方。
イチゴの収穫や出荷の管理に利用されるイチゴ農場さん、オンラインゲームのチームで選手の出場試合の管理をされる方、好きなお笑い芸人さんの出演予定をファンのみんなで共有する方などなど。

家族向けのイメージが強いTimeTreeですが、直近では家族利用でないカレンダーも増え続けています。直近では、家族用に作成される新規カレンダーの半分強くらいの数だけ、その他の用途のカレンダーも作られています。

押し付けないことでユーザーさんと一緒に使い方を見つける

はじめから「サッカーチームでも使えます」として打ち出すのではなく、こうしてユーザーさんの創造性をきっかけに使い方を拡張したのが重要だと思っています。

作り手側が「xxxでも使えます」「xxxでも使えます」というのは、ある意味お仕着せであり使う前からユーザーさんが望んでいる情報ではありません。

ところが、ユーザーさん自身が考え出した「こういうふうにも使えるのでは??」という創造性の中には、その人の自己表現、喜び、楽しさがあります。

そして、それを他のユーザーさんに紹介することは、「作り手からの押しつけ」ではなく、「自分たちと同じ消費者の発見」になるのです。それはまた「私ならどう使おう?」という楽しさを広げていきます。

以上、「ユーザーの創造性」を信じること、それをグロースのリソースとして理解し積極的につきあっていくことについて書いてみました。

僕はこれは結構よい考え方で再現性があるのでは?と思っているのですが、みなさんどう思われましたか?

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