第3回:骨太の方針とは(政権の最重要政府方針を理解する)

1.はじめに

今回のテーマは、骨太の方針(正確には「経済財政運営と改革の基本方針」)です。6月18日に成長戦略と同時に閣議決定(メモ①)されました。
 
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【メモ①:閣議決定とは】

内閣が意思決定のために開く会議。行政府(政府)の方針を定める会議としては最高レベルです。定例閣議として火曜と金曜、その他重要案件に対応するための臨時閣議やサインだけ集める持ち回り閣議があります。全会一致が原則ですがあくまで慣例とされています。

■全会一致にまつわるエピソード:

小泉内政権下の2005年8月の通常国会において、小泉総理肝いりの郵政民営化関連法案が参議院で否決。小泉総理は参議院での法案否決直後に衆議院解散のための閣議を開催しましたが、当時の島村農水大臣が解散に反対。解散を認める書類にサインをしないという事案が発生しました。小泉首相は島村農水大臣を罷免(クビ)にすることを決断。小泉総理が農水大臣を兼任する形で閣議決定するという出来事がありました。
強力なリーダーシップの持ち主であった小泉総理であろうとも、あくまで慣例である閣議の全会一致原則を無視しなかった事例です。
首相官邸リンク:
https://www.kantei.go.jp/jp/rekidai/1-2-5.html
2005年度 農林水産省年報リンク:
https://www.maff.go.jp/j/pr/annual/2005/pdf/chapter04.pdf


―――――――――――――(メモ終わり)――――――――――――
 

なぜ第2回の成長戦略に続き、第3回のトピックとして骨太の方針をとりあげたか。

それは、骨太の方針が成長戦略と同じく、もしくはそれ以上に、今後一年間の政府の方針を方向付ける重要なものだからです。

骨太の方針に記載された政策は、その実行に強いプレッシャーがかかります。
そのため、これから説明する骨太の方針の策定プロセスやその記載に影響を与える人々がだれなのかを認識しておくことは、進めたい政策を実現するためにとても重要なのです。
 
政策を変えようといろいろ努力しているけど、結果に結びつかない。
もしそんな悩みがあるなら、前回の成長戦略の記事に引き続き、今回の骨太の方針の記事を読んでみてください。今まで見過ごしていた政策へのアプローチのチャンスを正確に意識することができると思います。

日本では、政策立案に、政治家や官僚が強い影響力をもっています。そして、一部の働きかけの上手な団体や人たちは、実現したい政策を政治家や官僚に取り入れてもらえるように、日夜働きかけを行っています。

長年、政策に働きかけを行っている人たちは、これから我々が話すようなことを、ある程度は理解していると思います。そのため、官僚や政治家に効果的に自分たちの要望をインプットできるのです。

皆さんの思いが正しい方向を向いているのであれば、つまり社会的に必要なことであれば、いつかはその思いが届き、政策を通じて社会を変えることができるかもしれません。でも、政策実現は他者との競争です。適切なタイミングで、適切な形で、政策が提案されなければ、採用されることはありません。

現場には政策のタネが豊富に眠っています。皆さんが現場で感じた問題点を政治に反映するために、私たちがこれから書く内容を、今後の活動に生かしていただければ、嬉しく思います。

今回は、骨太の方針に重点を置いて、

無料部分で
‐骨太の方針の基本的事項
‐骨太の方針を議論する経済財政諮問会議の歴史
‐骨太の方針の読み方
について説明し、

有料部分で
‐経済財政諮問会議と各省庁の関係
‐骨太の方針の検討プロセス
‐骨太の方針に掲載してもらいたい内容をどう提案したらよいか


についてお伝えします。

(執筆:西川貴清、監修:千正康裕)

2.骨太の方針とは


 骨太の方針とは、経済財政諮問会議での議論をベースに作成される閣議決定文書です。その後の政府の政策の方針や予算配分の方針について記載しているもので、政府の閣議決定モノとしては最も重要なものの一つと言えます。

骨太の方針の案を作成する経済財政諮問会議は、内閣府に設置され、
①内閣総理大臣の諮問(意見を求めること)に応じ
②経済全般の運営の基本方針、財政運営の基本、予算編成の基本方針その他の経済財政政策に関する重要事項について調査審議し
③内閣総理大臣に意見を述べること
をその職務としています。(内閣府設置法第19条)

ちょっと、難しいかもしれませんが、要は、経済財政諮問会議は、法律上は単に調査し、意見を述べるだけで、政策を決定することはできないこととされています。
しかし、実態上は経済財政諮問会議の議論を踏まえて骨太の方針は作成され、最終的に閣議決定されます。そのため、経済財政諮問会議は、実質的に政策を決定する重要な場になっていると言ってよいと思います。

3.経済財政諮問会議の歴史


経済財政諮問会議の育ての親は小泉元総理ですが、生みの親は橋本元総理です。
橋本元総理は、1998年に中央省庁等改革基本法(メモ②)を成立させました。この法律と17本の中央省庁等改革関連法律により、かつて1府22省庁あった中央省庁が1府12省庁に再編されましたが、この時、同時に首相権限の強化のために経済財政諮問会議も内閣府設置法に位置付けられたのです。
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【メモ②:基本法とは】

基本法とは、国の政策として重要なものについて、その方針を示すもの。その政策を実施するにあたっての理念や方向性について規定するもので、具体的な内容については別途個別の法律で定めることになります。
 中央省庁等改革基本法はあくまで内閣機能の強化などを進める行政改革の基本理念や方針を定めたのみであり、経済財政諮問会議が内閣府に設置されている根拠となるのは個別法である内閣府設置法ということになります。

内閣府障がい者制度改革推進会議(第 26 回(H22.11.22))資料4リンク:
https://www8.cao.go.jp/shougai/suishin/kaikaku/s_kaigi/k_26/pdf/s4.pdf
中央省庁等改革基本法リンク:
https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=410AC0000000103
内閣府設置法リンク:
https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=411AC0000000089

―――――――――――――(メモ終わり)――――――――――――
 

この法律のもととなる議論が、橋本元総理をトップに置いた行政改革会議で行われていました。
その最終報告(1997年12月3日)では、

・内閣が実質的な政策議論を行いトップダウン的な政策の形成・遂行の担い手となること
・内閣総理大臣の指導的立場をその権限の上でも明確にすること

が必要であると主張していました。

その議論を踏まえ、内閣府という役所が誕生し、そこに経済財政諮問会議が設置されることとなったのです。

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【コラム:骨太の由来】

骨太の方針という言葉の由来は、宮澤喜一元首相が「諮問会議では骨太の議論をする」と発言したことに基づく、という説があります。
朝日新聞リンク:
https://www.asagaku.com/chugaku/newswatcher/19082.html
経済財政諮問会議の場において骨太という言葉が初めて登場したのは、2001 年 1 月 18 日の第2回会議。
森総理(当時)が
「社会保障制度をはじめとする構造的な諸問題を克服する。…そういう意味で、国民が将来について安心できる社会を形成するための 処方箋すなわち、骨太の政策を明確にすることだと考えます。」
と発言したのが最初です。
その後、同年2月27日の第4回会議で麻生経済財政政策担当大臣(当時)が「5、6月を目途に「骨太の方針」をまとめさせていただきたいと存じます。」
と発言(第4回会議では17回も「骨太」という発言がされました。)したことで、名称が現在まで定着することになりました。

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4.骨太の方針の読み方


骨太の方針の章立てとしては、例年以下のような形となっています。

■第1章 
第2章以降の経済財政政策につながる現状の日本経済・世界経済の分析を行います。

■第2章 
新規に開始したり、更に力を入れたりする経済政策(霞が関用語では「充実ダマ」と呼ばれます。)について言及します。第1章で言及した政府の方向性を詳細化し、個別政策を列挙。「年末までに、検討し、結論を得る」といったような記載を盛り込み、期限を切ることもあります。

■第3章
 財政政策(霞が関用語では「財政再建ダマ」と呼ばれます。)について記載します。第2章が政策を充実させるための記載だとすると、第3章は既存の政策を改革すること(支出を減らすこと)に主眼を置いたものが多いです。ざっくりとしたイメージでいうと、幼児教育無償化のようなサービスを拡充するような内容は第2章に入り、社会保障の持続可能性のための負担導入等、予算の効率的な使い方に重点を置くものが第3章に入るというイメージです。

5.有料記事から学べる事


ここまで、骨太の方針の読み方やその策定の舞台である経済財政諮問会議の成り立ちについて説明しました。

ここからは、進めたい政策を「骨太の方針」に反映させるために絶対に知っておくべき事項についてお話します。

策定のプロセス、働きかけのタイミング、政策決定のキーパーソンは、骨太の方針に影響を与えたいなら当然知っておくべき事項です。

更に骨太の方針が作られたあと、政策がどのように実現していくかについて、過去の経済財政諮問会議の具体的事例を取り上げて説明します。

ここで取り上げる例は、最終的に経済財政諮問会議の構成員が求めていた内容が、骨太の方針に記載される段階では、相当程度あいまいな内容になった事例です。

骨太の方針に何らかの方向性が記載されたからといって、それで政策が実現できるというわけではありません。どのような記載がなされるかがとても大切なのです。

そのことを過去の事例から学んでいただき、皆さんの政策実現に役立てていただきたいと思います。


【有料部分の目次】
6.経済財政諮問会議と厚生労働省の攻防(小泉政権下における医療制度改革)
7.骨太の方針の検討プロセス(安倍政権と菅政権の違い)
 メモ③:成長戦略会議とは
8.骨太の方針に反映したい政策がある場合、誰に働きかければよいか
9.働きかけのタイミング
10.まとめ

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