第43回 日本のデジタル政策はどこへ向かう?‐乱立する会議の役割を理解する方法‐
1. 政策ができてからビジネスを考えるのではなく、ビジネスに合った政策提案を
岸田総理の「新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画・フォローアップ」が 7月に閣議決定されました。計画の中では新しい資本主義の思想をこのように表現しています。
① 「市場も国家も」、「官も民も」によって課題を解決すること、
② 課題解決を通じて新たな市場を創る、すなわち社会的課題解決と経済成長の二兎を実現すること、
官民で課題に取り組み、経済成長も実現する、というのは最近の政策立案のトレンドです。
かつては、社会課題の解決は役所の専売特許のようなイメージがあり、公や社会のことを考えるのは役所の仕事と考えているビジネスパーソンも多かったように思います。
公共のための仕事をするためには公務員にならなくては、と考えて公務員になった人も多かったでしょう。ところは最近では、民間企業の「技術」と役所の「制度設計」の合わせ技で社会課題を解決する例も多くなってきているのです。
例えば、ここ数年でオンライン診療が急速に普及しました。
これは、コロナ禍で人と接触せず医療を提供しなければならない、遠隔地にも質の高い医療を提供しなければならないという課題を解決するために、
(1)対面と同じようにコミュニケーションをとれるシステム開発の「技術」と
(2)オンライン診療を安全に実施するためのガイドラインづくりやオンライン診療への保険適用などの「制度設計」
の両方がなされたことで実現されたものです。
日本の医療は、そのほとんどが公的医療保険によってカバーされる保険診療です(保険診療とは平たく言うと健康保険証が使える医療のことで、原則3割の自己負担で医療が受けられます。保険診療以外に美容整形や新しい治療など全額自費の自由診療もあります。)。
したがって、オンライン診療も例外ではなく、医療保険の対象となることにより、市場が急拡大します。マーケティング会社の富士経済は、106億円の市場が2035年までに生まれると推測しています。
制度が整えられることで、これまでなかった市場を創り出せるのです。しかも、医療のアクセス改善などの社会課題の解決もできる形でです。他にも、モビリティのラストワンマイル問題を解決するために電動キックボードの規制緩和が実現したことで、気軽に電動キックボードをレンタルできるようになったことも記憶に新しいでしょう。
社会課題解決を前提にした経済活動も活発になってきています。
企業に社会課題の解決や環境への取組、ガバナンスの確保についても投資の判断基準とするESG投資という手法も機関投資家が採用し始めています。
また、2017年の世界経済フォーラムでは、SDGs(貧困や、ジェンダー平等など、世界が解決すべき課題ごとの目標)を踏まえたビジネスで経済的な利益が得られることも明らかにされました。
かつては社会課題の解決といえば、役所やNPOの仕事と考えられていた時代もありましたが、もはや、社会課題を解決することとビジネスの拡大は、両立しなければならないものであるし、また、相反するものではなくなってきているのです。
ひと昔前なら、役所が決めた政策の流れに迅速に追従していくことで、ビジネスが成立していたかもしれませんが、もうそのやり方は時代遅れです。
社会課題の解決の責任の一端をビジネス領域にも求めることは、政策領域でもビジネス領域でも共通の潮流になってきていますので、、社会課題の解決に向けて、現場をよく知る民間企業や団体が、政府に対してスジのいい制度の提案することが、むしろ求められているともいえます。
2. デジタル分野は、民間からの政策提案が特に求められる
最近はDXの文脈で民間の知恵の活用について、政府の文書で記載される場面が多くなってきています。行政は、民間に比べてデジタル化が遅れていますし、人材も不足しているので、民間の皆さんの力が活かせる分野です。
行政手続きにおけるハンコ廃止、対面を求める規制の廃止、各自治体でカスタムされている行政システムの一元化、電子カルテの標準化、地方でのテレワーク推進など、DX関連でたくさんの政策テーマが骨太の方針や新しい資本主義実行計画などで取り上げられています。
DX関係に は今後集中的に予算も投下されることが予想されます。よりよい制度、使いやすい予算を作っていくために民間サイドからも、実態を踏まえた政策提案をしていくことが必要です。
実際に、デジタル関連の企業は活発に政策提案をしているようですが、なかなか企業の皆さんからは政府内の意思決定構造が見えにくいようです。
民間の方にとって、政府内の意思決定構造が分かりにくいのは、どの分野にも言えることなのですが、デジタル政策は新しい政策分野なので特に分かりにくいのです。
おそらく、霞が関の中の人でもよほどこの分野にかかわりの深い人でないと、明確に理解していないと思います。
3.乱立する政府のDX関連会議
民間からため政策提案する場合には、提案先を特定する必要があります。つまり、提案したい政策が、どこの場(会議)で議論されるのかを知る必要があります。
骨太の方針や新しい資本主義実行計画(成長戦略)を目指して提案をすることが重要だということは、政策提案に携わっている人なら概ね理解しているかもしれません。
しかし、そこで記載される内容は、その時点で政府が確約している内容について、閣議決定のタイミングを切り取った言わばスナップショットのようなものに過ぎないのです。
まだ決まっていないことや細かい政策の内容は、今後具体的な政策テーマに関係する会議などで議論されていきます。例えば、骨太の方針に「働き方改革」と記載されたのを受けて、厚生労働省の労働政策審議会で具体的な制度設計を議論するといった具合です。
これまでも政府が取り組んでいた政策テーマの場合は、担当省庁も政策を議論する審議会などの役割分担も明確なので、政策テーマが特定されれば、検討の場(会議体)も特定しやすいのです。
ところが、DXに関しては新しい政策分野なので、検討の場があまり知られていないように見受けられます。しかも、似たような名前の会議がたくさん存在しているのでとても分かりにくいですね。
デジタル田園都市国家構想実現会議、デジタル臨時行政調査会、デジタル社会構想会議、そして新しく作られる医療DX推進本部など、会議が乱立していて、会議名だけ見てもどの会議が何を議論する場なのか全くわからない状況です。
民間サイドの中には、良い政策提案があっても、適切な部署や担当者が分からず困っている人も多いのではないでしょうか。そこで今回は、DX関係の会議の立ち位置と取り扱っているテーマについて解説し、それぞれの会議の違いを皆さんに理解してもらおうと考えています 。
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