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スナフキンのサンダル ④ 〜 バンコクの洗礼 〜

初めての海外旅行で2日目にして、僕は1人ぼっちになってしまう。

途方にくれながら、カオサン通りのカフェで「地球の歩き方」を読んでいた。すると突然、

「おまえー、日本人やんなー」

と謎の男に喋りかけられた。インドネシアのバリ島出身というその男は、怪しい日本語で、

「おまえ、どこ行こうとしとるんや?」

と聞いてきた。僕はただ悩んでいた。
先輩が南へ行ったのなら、北へ向かうか、、、はたまた東へ行くか、、、、

「行けるところまで東へ、カンボジアを目指そうと思う」

と咄嗟に出た言葉が、意外にいい考えに思えてきた。そしてバリの男は、

「おまえ、カンボジアはビザがい〜るぞ〜」

と拙い日本語で教えてくれた。ここカオサン通りには、旅行代理店がたくさんあり、そこで申請すれば、3日後にビザが取れるそうだ。

まだまだ怪しい感覚は拭えないが、このバリの男を信用して、カフェの隣にある旅行代理店でカンボジアのビザを取ることにした。


初めての海外でバンコク2日目である。旅行代理店がカンボジアのビザ申請手続きをしてくれるので、僕はパスポートを預けた。
タイの国では外国人旅行者がホテルやゲストハウスに泊まる際は、パスポートを提示しなければならない。

僕はその日の宿をまだ見付けていないのに、ビザの申請で、パスポートが手元にないことに気付いた。そしてその事をバリ人の男に伝えると

「おまえ、俺の部屋を使ったらえ〜よ」

と男は上を指した。このカフェの2階部分はゲストハウスになっていて、彼はそこに泊まっているという。

バリの男の部屋を見せてもらった。大きなベットが1つにトイレがあるだけのシンプルな部屋だが、充分な広さがあった。

とりあえずそこに荷物を置いて2人で飲みに行くことにする。怪しいバリの男に連れられ、屋台が立ち並ぶ市場までやってきた。

「ここは海鮮が美味いんじゃ」

しかし日本人には、あまり馴染みのない味に、僕は少し戸惑ったが、無理やりビールで流し込んでは、

「うまいねー」

とお世辞を言うと、バリの男は調子に乗って、どんどん皿を持ってきやがった。

その中にコイのような大きな魚を丸々1匹、塩焼きにした皿があった。見た目は旨そうだが、一口食べると

「なんじゃこりゃ〜」

と思わず、箸が止まる。塩焼きにされていたのは表面だけで、中まで火が通っておらず、半分ナマの状態であった。

しばし、やめようと思ったが、その食べかけの生臭い身を目をつむってビールと一緒に飲みこんだ。

ひとしきり食べて飲んで、落ちついた頃、凄まじい吐き気が僕を襲ってきた。僕は屋台の裏に走り、込み上げてきた物を勢いよく、吐き出した。

さっきまで食べたすべての物を吐いてしまった気がする。その後も体の調子が悪く、部屋に戻って寝ることにした。


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