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ソングライティング・ワークブック 第102週:いろいろな楽器に対して書くときにすること(1)

効果的な編曲について。ソングライティングだけに興味がある人には必要ないかもしれないけれど、ざっと目を通しておけば、リハーサル現場で編曲者や楽器演奏者と話ができるようになります。

また、ここを訪れる人の多くはアマチュアだろうと思うので、それを前提に考えていきます。

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その編成で最大限に出せる音を把握する

なぜ「最大限」を把握するか

まず、その編成が最大限に出せる音について考える。なぜかというと、一つの曲の中で、最大限の音を使う場所を一か所ぐらいは(通常クライマックスになる)書きたいからだ。そしてその部分からスケッチを始めたいからだ。そういう部分があれば、その編成を使う正当性も生じる。もちろん、意図的に抑えることもあるけれど、その場合はその意図が納得できるものであることが望ましい。

演奏者は、とりあえず「ああ、演奏したなあ」という満足感を得たいだろう。そうでないと、「なんで私はここにいるんだろう」という気分になる。たとえば安全策をとって、トランペットに中低音域ばかりの譜面を書くと、「このオクターブ上でも吹けるんですけど」と言われたりする。プロの「営業」ならともかく、プロアマ問わず演奏する喜びを求めて集まっているのなら、作編曲者はそこを考慮しつつ、クオリティコントロールをすることになるだろう。

「最大限」とは何か

最大限にもいろいろな種類がある。

  • 音域(最高音と最低音)

  • 厚み(ボリューム)

  • 激しさと静かさ

  • 速度(密度)

  • 複雑さと単純さ

  • 持続

以上の要素が全て同時に現れるのではない。たとえば厚いけれどppp(ピアノピアニシモ)を指定することもある。最高音が現れているときに最低音が現れるとは限らない(対位法を習っている人はソプラノのピークとバスのボトムはむしろずらすことを勧められているだろう)。

演奏者のキャパシティ

単に楽器そのもののキャパシティではなく、実際に演奏する人のキャパシティを把握する。リハーサルにどれぐらい時間を掛けられるかという外的な要素もある;

  • 音域

  • 速度(密度)

  • 音量

  • 持久力

  • 音感

  • リズム感

  • 読譜力

  • 記憶力

  • 趣味(何を演奏し慣れているか)

  • リハーサルの時間

  • 目的(録音なのか、コンサートなのか、音楽教育―上達のための練習―なのか、など)

音楽好きな人は、プロの、それも非常に巧みな演奏を聴きなれている。たとえばホーンセクションのトランペットの超高音や超高速なパッセージなど。でも、だれでもIrakereみたいな演奏ができるわけではない。極端な例だけど。

予算があればそういう上手い人を雇えばいいけれど、こんな所を読みに来る人にそういう人がいるとも思えない。また、オーディションできるような立場にいる人もそういないだろう。

何かの縁で互いによく知らないアマチュアの大人が集まる場合には、とりあえず何か譜面を用意して、リハーサル中に演奏者に合わせて変更することになる。また、すでに存在していて活動歴のあるグループに対して編曲するときは、前もってその演奏を聴いた方がいい。

また、「定番曲」も知っておいた方がいいかもしれない。たとえば、日本でビッグバンドやブラスバンドをやっている人は『ルパン三世のテーマ』『宝島』『Sing, Sing, Sing』なんかはおそらく演奏したことがあるだろう。そういう曲の楽譜がどう書かれているか、調べてみるのもいい。団体に属していなくとも音楽教室に通っている人は、上記の曲をより平易に編曲したものを発表会などで演奏する。『糸』とか『ニューシネマパラダイス』なんかもそんな曲だ。多忙な大人が暇を見つけて何とか練習し、知っている曲が演奏できたという喜びを味わうための編曲になっている。

記譜についても演奏者に確認する。たとえば、ビッグバンドなどの経験が無くて全く独学でソロをやるためにサックスを練習しているという人の中には、通常のBbやEbの移調された譜面ではなく、実音を読んでいるという人もたまにいる。テナートロンボーンはクラシカルならテナー記号を使うことが多いけれど、多くの奏者はヘ音記号の方が慣れている。

リズムセクションに集まる人も多様だ。初対面だと、どこまで決めていいか手探りになる。前にも書いたけれど、コードネームを読む人と読まない人、譜面を読む人と読まない人がいる。デモを作って伝えた方がいい場合もある。コードよりローマ数字がいい人もいる。インストラクションがなければ何もできない人もいれば、自分で考えたものでなければできない人もいる。

たとえばストリングスやブラスの動きが、コードネームにして表すと恐ろしく複雑になってしまうことがあるだろう。その複雑なコードをギタリストに読ませるのか?これってコード表記意味なくない?弾いてほしい音譜面にした方がよくない?ということもある。でも、たとえばギタリストが譜面を読まない人だったら、どんなやりかたがあるか、考えなければいけない。たとえばメロディに重ねる、ミュート単音でリズムを刻んでもらってほかの音と干渉しないようにする、など。

ベーシストにも、コードと一応の譜面書いておきましたが、音符にはいちいち従わなくて結構です、が、この部分とこの部分はバリトンサックスとユニゾンなのでやってください、とお願いすることがあるだろう。

リズムセクションをやる人の多くにとっては、得意なグルーヴとそうでないものがあるので、そこも把握する必要がある。

余談だけど、アマチュアの管楽器奏者は何かの企画に(アマチュアバンドのゲストなどとして)参加する度に、ろくな譜面をもらわない(「ここ、何か考えて吹いてください」などと言われたりする)ことが多いのか、譜面にはいつも疑いの目を向けてかかることが多い。「この人楽器のことわかって書いてるんだろうか」「この音ちょっと変わってるけど、誤記かな?それとも、この人音楽理論わかってんだろうか」「これダサくね?」。信用を取り付けるためには、まずはそれぞれの楽器の音域を調べて、物理的に出ない音は書かないことだろう―編曲初心者でも、そこだけはクリアしよう。ググればそれぐらいはすぐ調べられる。今は記譜ソフトでも楽器を設定して書くことができ、その音域を超えてしまうと赤くなったりするのもある。あとはいつでも話し合って書き直す心構えでいることだろう。

そこそこ演奏が上手で、音大生のアルバイトとしてちょこっと「営業」している人の中には、いつも初見で演奏できるものを想定している人もいる。ちょっと難しいことを書くと「こんなエチュードみたいなのやるんですか?この仕事で?」と驚かれることもある。いずれにせよ、コンセンサスは重要だ。

何だか気配りばかりについて書いてしまった。周りに気を遣ってばかりで私の創造性はどうなる?と心配する人もいるだろうけれど、制限があったほうが仕事は速くなる。

次回はその最大限の部分をスケッチするところから具体的に始める―『トゥッティ(tutti)をスケッチする』

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