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ソングライティング・ワークブック 第96週:光と陰(オモテとウラ)でパターンを作る(2)

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テクノから学んでみる

ホワイトノイズから

自然、人工に限らず、環境音の多くはホワイトノイズでできている。

単純に言えば、ピッチの無い打楽器の音色はホワイトノイズでできている。広い帯域のホワイトノイズの壁があるとして、高い方を削れば(ローパスフィルター)キック(バスドラム)になり、低い方を削れば(ハイパスフィルター)ハイハットになる。

電気的に派生したホワイトノイズを彫刻して音楽を作るという発想が、いつごろ始まったのか知らない。たぶんラジオの草創期にそのノイズを聞いて、これで音楽作れないかな、と考えた人はわりといたのではないかと思う。実行に移した人は少ないかもしれないけれど。

湯浅譲二の『ホワイトノイズによるイコン』(1967)は、日本でラジオ放送が始まった年(1925年)から数えてもずいぶん経ってから作られているけれど、私の記憶では80年代ごろには「電子音楽の古典」などと呼ばれていた。原曲は5つのスピーカーから出てくる音の移り変わりを聴くための作品だったそうだけど、録音として売られているのはステレオ版で、私もこのヴァージョンしか聴いたことがない。

瞑想して聴くための音楽と言っていいだろう。耳を澄ませるための音楽(いわゆる「現代音楽」の中でも瞑想的なものの多くは、そういう作用を持つ)。高架下で上をどんな車が時速何キロぐらいで走っているか推測したり、水元公園でいろいろな鳥の鳴き声を聴き分けるような態度を、聴く人に要求する。

ハウスやテクノでは、人々が集まって踊るためにホワイトノイズが使われる。下の動画はベルギーのゲント市のクラブの模様(私的な話だけど、昔はこんな所によく行ったもんだ。ヨーロッパでは入場無料のこんな雰囲気のイベントが多かったので、数ユーロの飲み物代だけ持ってればそこそこ楽しく夜を過ごせた)。

電気的に発生させたノイズを、これまた機械的にドン、ドン、ドン、ドン、と鳴らすだけでも、環境(人々が「さあ、踊るぞ、踊らせてくれ」と待ち構えているような状態)が整えば、人々は踊れてしまう。太鼓の名人は必要ない。1960年代から70年代あたりでの、大きな発見である。

人を招き入れる音楽とは、なんやかんやと洗練されてくるものだ。こうした方がより心地よく踊れるとか、こういうアトモスフェアを創りたいとか、いろいろ工夫することになるからだ。ここが「瞑想」や「実験」を目的にする作り手と態度を異にする部分だ。「接触不良音だけで何か創れることを実証してみる」というような(皮相的な言い方だけど)「実験的」な音楽の「知的に刺激的な」手法や音源は取り入れつつ、都市に住むスノッブたちを楽しませる音楽が、こうしてできあがる。今ではこういう音をプロデュースするためのサンプルやエフェクターやフィルターが日々無数に創られている。

キックドラムという物差し

テクノと言えば、4分音符=120より速いテンポで刻まれるキック(多くは909風の音)を思い出す。あとは、8分音符裏で入るハイハットと2、4拍目に入るハンドクラップ(人工的な)。

ドラムマシンの音色にはスタイルによる棲み分けが何となくあって、808はヒップホップ、909はテクノとなっている。どちらのスタイルも黎明期から数えればほぼ半世紀になろうというのに、まだその棲み分けが全くなくなってしまったわけではないようだ。どちらも「楽器を習得しなくてもできる民主的なスタイル」を象徴する音色になっているようである。

実際にはこんな単純なものをそのまま使っているわけではない。テクノ創作する手ほどきをするYouTuber、Oscarが説明している。

Oscarは、アマチュアとそれほどアマチュアでない人を分ける4つのルールについて述べている;

  1. どのレベルでもグルーヴが起こる(低音のレベルであれば、キックは最低2つの異なるキックの音色が重ね合わされたり干渉しあったりして強弱ができる。高音のレベルならハイハットでもそのようなことが起こる)

  2. ムーヴメント(それぞれの音が興味をそそられる仕方で重ね合わされたり減らされたりする)

  3. ポリメーター(ポリリズムと似ているけれどちょっと違う。小節線と合致しないようなトラックをいくつか含んでいること)

  4. 緊張と緩和(テクノの場合はゆっくりと広い帯域をだんだん埋めていって最終的にホワイトノイズに近い状態を作り出して、また重ねる音を減らしてそれぞれの要素がよりはっきりと聞く人に体験できるようにする)

たとえばDAWの前に座ってはみたけれど、特にインスピレーションが無い時に(物事に取り掛かるときと言うのは大抵そんなものだ)、トラックメイキングの練習として、とりあえずテクノのやり方を借りるのはいい方法だと思う。つまりとりあえずキックの4つ打ちを入れてしまう。

もうひとつ少し音色の違うキック音を用意してみよう。こちらはより低いくぐもった音で音量も下げておく。

ポリリズム、ポリメーターを使ったトラックを用意する。たとえば、下のエレピは右手は5拍に1回打つ、左手は2小節1組のフレーズになっている。右手が予測できない感じになる(5小節ごとに頭に帰ってくる)。

また下のマリンバは16分音符7個で一括りになっていて、4小節目で頭に戻れるように最後だけ16分音符8個(2拍)になっている。

これらを前回作ったシンセベースの4小節フレーズと組み合わせて、ざっと組み立ててみたら下のようになった。実際のDAW上でのプロデュースはもっといろいろ細かい操作がふくまれるのだけれど。


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