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ソングライティング・ワークブック 第143週:Violeta Parra(4)

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Arriba quemando el sol (地上には燃え盛る太陽が)

チリと鉱山

2010年、チリの銅山で落盤事故があり、30数名の鉱山労働者が閉じ込められたことがあった。まず中で生きている様子が映像で報じられ、数日後その救出の様子は衛星ニュースを通じて世界中に中継された。私もアルジャジーラのインターネット中継を見ていた。

その様子はとてもドラマティックだった。一人一人の鉱山労働者が歓呼で迎えられていた。当時の大統領は保守系のPiñera(ピニェラ)という人だったけど、その中継の中でインタビューに答え、チリは変わったのだ、もうPinochet時代のチリではないのだ、ということを強調していた。保守政治家でも、Pinochetの暗いイメージは払拭したいと考えているのだ、ということは、何となくわかった。

Pinochetのクーデターの後、チリは合衆国のいわゆるネオリベラリズム経済学の実験場になった。だからそれを擁護する立場の人は、Pinochet時代の経済発展を「チリの奇跡」と言って賞賛している。けれど、一方では多くの人が殺され、亡命を余儀なくされた。ポピュラーカルチャーではチリの人々に連帯するアーティストがいた。1980年代にはStingだって、Pinochetを批判する歌を出している。

変化というのは、Piñeraがそう印象付けたがっていたほど、いっぺんには訪れないのだろう。最近Pinochetの憲法に変わる新しい憲法を保守側の人々が草稿し、国民投票にかけられたが否決された。数年前には進歩的な側の人々が新しい憲法は草稿し、国民投票で否決されている。Pinochetの後始末は終わっていないし、そのせめぎ合いが続いていると見るべきだろう。

話を戻せば、ボリビアとかでもそうだけど、チリにとって鉱山は特別な、歴史的な意味を持っている。だから救出の様子をあんなに大々的に中継したりもしたわけだ。

ヨーロッパからの征服者たち(コンキスタドール、Conquistadores)は鉱脈を求めた。前回紹介したVioleta Parraの『Arauco tiene una pena』でも、「Un día llega de lejos Huescufe conquistador, buscando montañas de oro, que el indio nunca buscó, (ある日悪魔の征服者たちがはるばるやってきた、金の山を求めて。インディオたちが決して求めもしなかったものを)」というフレーズがある。

鉱山はある人々にとっては富であり、ある人々にとっては苦しみであった。

『Arriba quemando el sol』も、『Arauco tiene una pena』と同様の民謡的曲調を持った歌だ。

Cuando vide los mineros
dentro de su habitación
me dije mejor habita
en su concha el caracol
o a la sombra de las leyes
el refinado ladrón
Y arriba quemando el sol

Violeta Parra, "Arriba quemando el sol"

内容は鉱山労働者たちの暮らしについて、上は2つ目のヴァースだけれど、「鉱山労働者の住処の前で彼らに会ったとき、彼らは私に言った-カタツムリの殻にでも住むか、法の届かない盗賊のところにでも住んだした方がましだ-そして地上は太陽が燃え盛る」という意味のことを言っている。

『Arauco tiene una pena』より単純なメロディとコードとリズムを持っている。でもこの単純な力強さが効果的だ。今でもよくカバーされる歌である。



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