ソングライティング・ワークブック 第135週:フックをスケッチする(3)
課題94
先週書いたことだけれど、『Switched on Pop』によれば、次の3種類のフックがあるという;
モティーフのフック(motif hook)...印象的な短いフレーズ、メロディックなもの、リズミックなもの、ハーモニックなもの、どれも含む。
セクションのフック(section hook)...印象的なセクション、ヴァース、コーラスなど(コーラスのことが多い)。
コンセプトとしてのフック(conceptual hook)...歌詞のアイデアが音楽として実現されているような部分、要素。
ここから何かフックを書く課題を考えてみたい。
フックは歌のパートだけとは限らない
かつてギターヒーローたちによるロックバンドが盛んだったころ(今でもなくなってしまったわけではないけれど)、楽曲のフックはギターソロやリフにあった。そういったバンドのヴォーカリストが霞んでしまったわけではないけれど、多くのオーディエンスはギターソロを期待してそういったバンドを聴いていたので、そういったオーディエンスにとってのフックはやはりギターソロということになる(下の例だとキーボードのリフやソロもフックだと言えるけれど)。
『Switched on Pop』は「何をフックと感じるか」は聴く人の主観にゆだねられると断り書きをしていたけれど、言い換えれば、聴く人の「期待」が大事な要素になるということでもある。
ギターロックを聴く人にとってはギターソロがフックになる。先週の例のように、Ariana Grandeがダンスミュージック畑の人とコラボしたということになれば、聴く人はダンスミュージックのあのソアーとドロップを期待する。
また、ヴォーカルパートが目立つ例でも。歌詞というよりヴォーカリストの声のありようがフックになる場合もある。極端な高音など、思い出す人も多いだろう。「楽器としての声」と言える。
歌詞を書くのが苦手でも曲は書けるという人にとっては、楽器(電子音も含む)のパートのフックを考えることから始めればいいだろう。
インストが目立つ歌でも、歌詞や全体が表現しようとしているものをインストのパートで表現することは多い。また、歌詞が全てを説明しないで、音楽全体で何かを言おうとすることも多い。
歌詞が戦争(この歌ができた時代ならベトナム戦争)とか「現代の狂気」についての何かだということは何となくわかる。言葉が先にあったのか、音が先にあったのかは知らない。長大なインストパートは印象的で、人の記憶に残りやすいと言える。こういうのはクラシカルで何かの情景を描写したり、何かの観念を表現しようとしたりするのと、やろうとしていることはそれほど変わらない。違うのは音の素材だ。
単にかっこいい言葉とかフレーズとか、断片的なものもフックになり得るけれど、『Switched on Pop』では「歌詞との関連」も強調されている(コンセプトとしてのフック)。テーマが問題になってくる。
フックに到達するためのいろいろなやり方
次の方法を試みなさい;
印象的な短いメロディ(歌詞なし)
印象的なハーモニーの移り変わり(コード、と言ってもいい)
印象的な短いリズム形
印象的な言葉(たくさんのメモ)
印象的な言葉とメロディの取り合わせ
言葉(単語、フレーズ)を描写するような、その言葉に付けられるメロディ
言葉(単語、フレーズ)を描写するような伴奏
音で歌詞を描写する例
たとえば「ブーメラン」という言葉を思いついたとして、それが舞っているかのようなメロディをつけると、下のような歌になる(はっきり言って私も冒頭の「ブーメラン、ブーメラン」しか覚えてない)。言葉を描写するメロディの例。
Journeyの人気のあったバラード『Don't Stop Believin'』の冒頭の歌詞はこうある;
すぐにギターが「タラリラタラリラタラリラ…(加速)タラリラタラリラ…ウワーンウワーンウワーン」と入ってくるけれど、夜汽車の描写と言える。大変印象的な、歌詞を描写するギターのフックだ。
『Switched on Pop』ではJustin Timberlakeの『What Goes Around…Comes Around』を紹介している。メインストリームのポップソングとしては長尺だ。「What goes around, goes around, goes around, comes all the way back around」につけられているコーラスパートのメロディがぐるぐるめぐる様子を描写している。
歌詞をメロディでベタに描写するのは決して古臭い手法ではないと言える。
課題の「印象的な」の前には「あなたにとって」という言葉が隠れている。主観で構わない。
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