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マロン内藤のルーザー伝説(その4ター坊との契り)

忘れもしない暑い夏の昼下がり、憧れのポルシェ930ターボ(以降ター坊)と私の正式な婚姻の儀がしめやかに執り行われた(納車日ですね)。敢えて例えるならば、恋愛結婚というよりは、昔は当たり前だったお見合い結婚と言ったほうが正しいであろうか?いや、一目惚れからの熱烈アプローチ婚ですな。

さて、ター坊との初の共同作業の話を紹介する前に、購入したお店についてのエピソードを紹介したい。そのお店のしきたりとして、「車庫証明ステッカーはお店が保管する」という謎のルールがあり、ター坊用に交付されたステッカーも当然ながらおじさん預かりとなった。おじさん曰く、「法律的にはなんら問題がない。何かあれば証明書があるのだから大丈夫」ということであった。なにがどう大丈夫なのか釈然としないながらも、ここでおじさんと些末なことで揉めたくない小市民の私は、黙ってそのルールに従った。後でわかったことであるが、おじさんは顧客用に交付されたステッカーをお店の在庫車に貼って車庫として借りている駐車場に保管していたのである。なかなかのアイデアマンである。

納車日の初ドライブ先は近所のガストだった。初めて握るステアリング、マニュアルシフトレバー、アクセル・クラッチ・ブレーキ、あこがれの車のオーナーとなった実感が沸々とこみ上げてきた。ここでそれまで所謂ビンテージカーに乗ったことのなかった私のFirst Impressionを紹介したい。
1.パワステがないのでステアリングを切るのに結構な力を要する
2.パワーブレーキもなく(あるいは故障していて)、相当な力を入れてブレーキを踏まないと止まらない。レーシングカーテクノロジーがフィードバックされているはずの車で、ブレーキが効かないというのはなんらかの不具合があることを示唆している・・
3.マニュアルシフトはポルシェシンクロと呼ばれる機構で、パワーとトルクが大きいため4速。ポルシェシンクロは「バターを切る感覚のシフトフィール」と専門書に書いてあった通りの感じ。長いシフトレバー形状も相まって、スポーツカーというよりは、路線バスのようである。
4.路面の突き上げがダイレクトに伝わる実にスパルタンな乗り心地。これも単にサスペンションがへたってしまっている可能性を示唆している・・
5.エンジンの吹けあがりは製造から30年が経過している車と思えないくらいに鋭く、実にスポーティー。素直にうれしい。この車を30年前に新車で買ったオーナーは相当びっくりしたのではないか。ドッカンターボの効きも試してみたくなる。

ポルシェ好きの方には釈迦に説法であるが、当時のエンジンは空冷水平対向6気筒であり、初の水冷エンジンを搭載した977型がデビューする1997年までその伝統は続いたのである。空冷でよくオーバーヒートしないものだと感心したが、1970年のルマン24時間レースでポルシェに悲願の優勝をもたらしたのは空冷水平対向12気筒エンジンを搭載したポルシェ917であり、これまた何事にもやりすぎてしまう感の否めないジャーマンクラフツマンシップにうっとりするのである。

話をター坊に戻すと、ブレーキが良く効かないため、一般道を走行する場合は2つあるいは3つ先の信号を注視しつつ、十二分な車間距離を確保しての超安全走行を余儀なくされ、結果的におじさんから念押しされた「飛ばしてはならない」の約束を厳格に守ることとなった。危なくて飛ばせないのである。

さて、納車日に発生したトラブルは記憶にあるだけでも以下の通り
1.クーラーから突然「バリバリバリ」というものすごい異音発生
2.パワーウィンドウが動かなくなる
3.片方のドアミラーが動かなくなる
4.バッテリーが上がる
早速おじさんの店に持ち込んで契約先の修理工場(これもどこのだれかわからずじまい)で対応してもらった。もちろん有償である。

おまけに、前オーナーである「超有名プロデューサー」の趣味であろうか、シートベルトもご丁寧にレース用の4点タイプに交換されていたのである。町中をトロトロ走る車には無用の長物であり、これまたおじさんに頼んで普通の3点ベルトに交換したことは言うまでもない。

このような初期トラブルは当然ながら想定の範囲、むしろ「ビンテージポルシェと共に暮らすエンスーライフのプレリュードであり、食事に例えるならばアペタイザーである」と自らの消費判断を正当化するバイアス300%の私としては考えたのであるが、実はアペタイザーではなく、「シェフからのご挨拶でございます」の言葉と共にアペタイザー前に供される一口サイズのおつまみであったのである。英語で表現するならば You ain't seen nothing yet.ですね。

まだまだ続く・・・


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