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第1回 授業を始める (その7)      課題明示の準備と実践

 今回は「第1回 授業を始める(その6)」に掲載した原稿を手がかりに議論を深めます。本対話の(その4)で、授業に導入したグループ活動がうまくいかなかったという事例が取り上げられました。そこで、グループ活動がうまく展開しなかった原因を「課題明示」の観点から(その5)で検討しました。この事例の検討が前回の(その6)でも引き継がれています。この流れを前提に、「課題明示の準備と実践」という観点から、さらに議論を深めたいと思います。

○課題明示の準備と実践
 教師が期待した授業を実現するためには、少なくとも学生と教師と教材の要因を総合的に判断して準備する必要があります。この三者は相互に影響し合っており、微妙なバランスのうえで授業が展開します。授業を計画するさいには、学生の資質能力、教師自身の授業実践力、および両者の関係性を把握し、授業目標の達成に必要と思われる教材を準備します。そして、もっとも望ましい授業展開をイメージし、計画します。この一連の作業のなかで課題を明示する方法が必然的に決まってきます。
 グループ活動も基本は同じです。学生と教師と教材の三者を意識しながらグループ活動を計画します。まずグループ活動の達成目標を明確にします。「・・・を理解する」といった抽象的な表現ではなく、「・・・を説明できる」といった具体的な行為で表します。次にグループ活動にもちいる教材の種類と難易度およびその使い方を、対象となる学生の実情に合わせて調整します。そのうえで、グループ活動の展開過程をイメージし、学生の活動性を高める工夫を重ねます。
 準備段階でグループの展開過程を教師がどれほど活き活きとイメージできるか。これがグループ活性化の鍵となります。教師の説明を学生はどうのように捉え理解するか。教師の指示に従って学生はどのように活動を始め、どのようなプロセスをたどって目標とする具体的な行為を達成できるか。指示の方法を変えると、学生の活動がどのように変化するか。教師はいくつもの可能性を事前にシミュレーションします。そして教師が期待する活動を引き出すと思われる最善の指示(課題明示)を準備します。
 実際の授業場面では、説明や指示が通りやすい場づくりを心がけ、準備した指示を確実に伝えます。時に教師の指示が終わる前に動き出すグループがありますが、最後まで聞くように指導します。すべての指示が終わり、指示が徹底したことを確認したうえで、グループ活動開始のゴーサインを出します。ゴーサインを出すと同時に、学生が活動を始めれば課題明示がうまくいったと判断できます。
 もし、学生の活動がすぐに始まらず沈黙が続いたり、学生同士が目配せしたりするグループが1つでもあれば課題明示が失敗したと判断して、直ちにすべてのグループ活動を中断します。そして中断した理由を学生に伝えます。多くのばあい、教師による指示の出し方が原因となります。そうであれば課題明示が不十分であったことを率直に認め、より丁寧な課題明示を再度試みます。大抵はこれでうまくいきます。
 それでも思うようなグループ活動が展開しなければ、学生と現状を共有し、問題解決に向け、徹底的に話し合います。この学生との真摯な対話により、多くの場合、問題解決の糸口が見つかります。と同時に、授業づくりに学生を巻きこむきっかけにもなります。

○実践の改善に向けて
 中村先生の実践ではグループ間での対話が思うように展開しませんでした。その理由を考えるさい上記の説明が解決の糸口になることを期待しています。 
 前回(その6)の原稿で中村先生は「今回の授業で取り入れた協同学習の技法は、授業全体の2/3が経過した時点で、正直に言えば突発的に取り入れたものでした」と告白されています。ここからグループ内対話はともかくグループ間対話の導入は時期尚早であったいえます。グループ間対話に必要な対話スキルと、考えたことを出しやすいクラス全体の雰囲気(支持的風土)が十分には育っていなかった可能性があります。そもそもグループ間対話の意味と目的を学生が理解していなかったのではないでしょうか。
 この場合は、本対話・第1回目の(その5)で紹介した「手本を示す」という方法を試みてください。このような指導を通して、グループ間対話の意味と目的、それに具体的な方法を伝えることができます。また、この活動を通してグループ間対話が展開しやすい雰囲気づくり(クラスづくり)につなげることもできます。
 授業の流れに応じてグループ活動を急遽導入することは必ずしも悪いことではありません。しかし、このような状況においてもグループ活動の有効性を確実に引き出すためには、教師の側に一定の指導力が求められます。その指導力を養うためには協同学習の考え方や技法を教師自らが体験的に理解する必要があります。教師自身が実践できなければ、学生を指導することはできません。この点を十分に理解し、機会あるごとに協同学習の体験的理解を深める努力をお願いします。

○グループ編成について
 中村先生の原稿にグループ編成に関する質問がありました。これは大変重要な検討課題です。実際、「第2回 グループの編成と配置」で取り上げる予定でした。
 そこで「第1回 授業を始める」はここで一区切りをつけ、次回から第2回のテーマに沿った対話を展開したいと思います。新たなテーマに関する対話がどのように展開するか楽しみです。


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