第1回 授業を始める (その6) 授業で残った「モヤモヤ」感の意味は
第1回「授業を始める」に関する対話も今回で(その6)となりました。今回届いた原稿を以下に紹介します。この原稿に対する私のコメントは次回(その7)で掲載します。
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〇自分の授業を振り返り、学生の「つまづき」を活用しきれなかったと気づく
東京都立広尾看護専門学校の中村 誠です。第1回(その4)で篠原先生の原稿にあった私の授業実践の事例を、(その5)の安永先生のコメントをふまえて振り返りをしました。そこには、学生の「つまずき」こそ教育指導の絶好の機会であると書かれており、私は自分の授業設計で工夫が足りなかったのはこれだったのかな?とハッとさせられました。
本時の授業は、臨床の現場でさまざまな出来事が同時に発生したさいに優先順位をどのように考え、判断、行動するかを学ぶものでした。ケースバイケースのため絶対的な答えはありませんが、判断に至った根拠をどのように考えるかを学んでほしいと考えながら授業設計をしました。私は、前時に別の事例で優先順位の考え方について講義形式で説明をしたうえで、本時のグループワークに向けて事前課題を提示していました。
事前課題の概要は次の通りです。
○事前課題 あなたは深夜勤の看護師です。以下の業務が重なりました。
患者A 朝6時 手術前の処置、浣腸をかける
患者B 朝6時 抗菌薬の点滴投与
患者C 朝6時 ナースコールにて排泄介助の依頼があった
問1 優先順位をどのようにつけますか?
問2 優先順位を考えた根拠を具体的に述べてください。
この課題を本時の約1週間前に提示しました。本時では、4名グループでラウンドロビンをおこない、自分の考えをお互いに述べ合い「こういう場合だったらこう考える」「いや、こうした場合はこんな危険が潜んでいる」など活発な意見交換となりました。しかし、その後のグループ間討議では期待するような積極的意見交換には発展しませんでした。これはおそらく、すでに自分の考えを4名グループで述べ合い、考えの異なる他者との意見交換を終えていたため、その後のグループ間討議ではある意味事例に対する新鮮さを失っていたのかもしれないと振り返りました。事前課題とせず授業中に課題明示を行ったほうが、教材に対する新鮮さを保ちながら、効果的な「つまづき」につながっていったのでしょうか。
また、安永先生の書かれていた通り、意見交換に向けた教員からの指示内容に不足があったと振り返りました。対象のクラスは、入学時より関わりがあり、私との信頼関係もあり、クラスの雰囲気は比較的活発で意見交換しやすいクラスでした。にも関わらずグループ間の意見交換が活発化につながらなかったのは、やはり私の課題明示や指示の出し方に課題があったのだと気がつきました。
〇教員と学生が同じ「見通し」を描く重要性
今回の授業で取り入れた協同学習の技法は、授業全体の2/3が経過した時点で、正直に言えば突発的に取り入れたものでした。授業の第1回目では科目目標を説明していましたが、今回の授業のなかで協同学習の考え方や学び方を取り入れた学習としてラウンドロビンを取り入れるという説明が不足していたように振り返ります。そのため、学生にしてみれば私たち教員がどのようなねらいのもと、何を学んでほしいのかがわからなかったのかもしれません。ある意味、教員サイドからの一方向的な授業になってしまったと言い換えることができます。恐らくこれがモヤモヤの原因だったのですね。
私たちは、協同学習の考えに基づいたグループ間での活発な意見交換をしてほしいと願っていましたが、学生は普段の意見交換との違いを認識しきれていなかったのではないかと思います。見よう見まねで技法だけを取り入れてみても、本当の意味での協同学習につながらないのだということを学ぶことができました。
〇 協同学習におけるグループ編成で注意する事はありますか?
安永先生の著書を読みながら、9月から開講する1年生を対象とした、小児看護学概論で本格的に導入してみようか準備を進めているところです。そこで、グループ編成について質問があります。安永先生の著書の中では、グループ編成をするときには異質性の高いグループ編成について書かれていました。当校では現役で入学した学生と社会人経験を経て入学した学生が約半分ずつ在籍しています。その中でも様々な特徴をもった学生がいて、意見の強い学生もいれば、引っ込み思案な学生、思考の回転が速い学生とそうでない学生ももいます。さらに、入学して6か月が経過していますので、ある程度人間関係も形成されており学生同士もそれを認識している状態です。
そこで私が心配しているのは、意見が強かったり思考の回転が速かったりする学生ばかりが前面に出てしまわないかどうかということです。授業の冒頭に、協同の精神をしっかりとオリエンテーションしたうえで臨むつもりです。しかし、これまで私が実践してきたグループワークの失敗例として、ある一部の学生が学習の主導権を握り、その他の学生が参加できずに終わってしまうという苦い経験が頭をよぎってしまいます。協同学習の様々な技法は、個人思考を基盤として集団思考が成立するということなので、その通りに授業展開ができればそのようなことはないと思うのですが、失敗しないためのポイントがありましたら教えてほしいです。