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響きの押韻論:子音特性の整理

 こんばんは。Sagishiです。

 以前『押韻の「響き」の評価指標』にて、「押韻の響きのレベル」を論じるのに「音節」「子音」「アクセント」を評価指標にできると書きました。

 その後、『押韻論Ⅴ:日本語のライムタイプ』で音節とアクセントを一体的に捉え、「ライムタイプ」の理論にまとめました。この「ライムタイプ」の定義は、日本語の押韻への理解を高めるのに非常に有用ですが、「押韻の響き」への検討が十分ではない、という懸案がありました。

 そこで今回の記事では、日本語の各言語音(子音と母音)の特性を明確にすることで、押韻の「響き」への理解を深めていこうと思います。


1 言語音の特性

 一般的に、子音は下記のようなIPA(国際音声記号)表で表されます。

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 しかし、音声学を専門に修学していない身からすると、以前からこの表は分かりにくいと感じていました。

 そもそも音声記号への知識が不足しているので、どの音声記号がどのような音なのかを理解していないという問題があります。また、例えば日本語の「は」行は、は[ha]へ[he]ほ[ho]とひ[çi]とふ[ɸu]で、音声記号が異なっているなど、日本語そのものに根ざした問題があり、上記のIPAは直感的ではないと感じていました。

 上記の問題を解決するために、IPA表をすべて日本語のモーラ単位で書いてみようと考えました。それが下記です。

言語音素性表

 表にするうえで、音声学に詳しい方々から意見をいただきました。ありがとうございます。異論もあるかもしれませんが、その場合はコメントいただければと思います。

 この日本語のモーラごとの音声特性を記述した表を使うことで、どの音がどのようなカテゴリーに属しているのかを直感的に理解することが可能です。そして、どの音同士で押韻をすれば、より効果的に響くのかを理解する手助けになります。


2 「響き度」の設定に向けて

 これまで日本語ラップの世界では、どの音とどの音が効果的に響くと考えるのかは、個人個人の主観に依存していました。

 この音声特性表を使えば、個人の主観に依存せず、より客観的に「響き」を議論するための基礎を構築できるようになります。

 例えば、「タ」と「パ」「ファ」あるいは「タ」と「ナ」「マ」は、どちらのほうがより響くのか、というような議論の際に、

「タ(無声・歯茎・破裂音)」と「パ(無声・両唇・破裂音)」
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「タ(無声・歯茎・破裂音)」と「ファ(無声・両唇・摩擦音)」

「タ(無声・歯茎・破裂音)」と「ナ(有声・歯茎・鼻音)」
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「タ(無声・歯茎・破裂音)」と「マ(有声・両唇・鼻音)」

 それぞれの言語音の特性を確認することで、上記のようなことが言えるようになります。

 これまで「押韻しているのに響いていない」というような現象は抽象的・体感的に理解されていましたが、科学的に説明できるようになれば、押韻を学問的に捉えることが可能になります。この議論を深めることができれば、押韻に客観的な「響き度」を設定できるようになるかもしれません。

 「ライムタイプ」と同様に、「響き度」を設定できれば、押韻への理解をより向上させることができるでしょう。

詩を書くひと。押韻の研究とかをしてる。(@sagishi0) https://yasumi-sha.booth.pm/