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日本語のライムタイプ②:不完全韻の定義

 こんばんは。Sagishiです。

 前回は、『日本語の完全韻』について記事にしました。

 今回は、日本語の不完全韻(インパーフェクト・ライム)について、定義できたものをまとめていきます。


1 日本語の不完全韻(インパーフェクト・ライム)

1-1 日本語にファミリー・ライムはない

 英語の不完全韻のライムタイプにファミリー・ライム(Family rhyme)があります。ファミリー・ライムは、コーダ(尾子音)が同じ子音のカテゴリーに属している場合のライムを定義しています。

 子音は、ざっくり分けて「阻害音」と「共鳴音」のペアに分けられます。

阻害音 k,g,s,z,t,d,h,b,pなど
共鳴音 m,n,r,l,y,wなど

 そのため、下記のように尾子音が同じ子音カテゴリーで揃えられているライムはファミリー・ライムになります。

◆阻害音のファミリー・ライム
feet [fíːt]
speed [spíːd]

◆共鳴音のファミリー・ライム
fame [féɪm]
rain [réɪn]

 しかし、日本語の音節はほとんどが母音で終わります。基本的に尾子音が発生するのは「ン」しかなく、あとは母音が無声化する場合くらいです。

 なので、日本語にはファミリー・ライムはありません。


1-2 長短韻(Different syllable-weights rhyme)

 長短韻は、わたしが提案する新しい日本語のライムタイプです。

◆長短韻
 重音節と軽音節が対応する押韻。

 蚊 [カ]
 缶 [カン]

 木   [キ]
 Sea [シー]

 サラダ [サ・ラ・ダ]
 散乱弾 [サン・ラン・ダン]

 正当性 [セー・トー・セー]
 寝とけ [ネ・ト・ケ]

 カテゴリー [カ・テ・ゴ・リー]
 反面教師  [ハン・メン・キョー・シ]

 英語のライムタイプには加法韻(Additive rhyme)や減法韻(Subtractive rhyme)があります。加法韻・減法韻は、ざっくり言うならば、母音の後部要素に差異があるライムタイプです。

◆加法韻・減法韻
free [fríː]
speed [spíːd]

rock [rάk]
box [bάks]

 この特徴は長短韻とも共通しており、長短韻は、加法韻・減法韻にほぼ相当するような日本語のライムタイプだと言えます。


1-3 重音節韻(Heavy syllable rhyme)

 重音節韻も、わたしが提案する新しい日本語のライムタイプです。

◆重音節韻
 特殊モーラ要素が異なる重音節同士が対応する押韻。

 霊 [レー]
 剣 [ケン]

 葛藤 [カッ・トー]
 感動 [カン・ドー]
 再婚 [サイ・コン]
 細胞 [サイ・ボー]

 経済 [ケー・ザイ]
 決壊 [ケッ・カイ]
 絶版 [ゼッ・パン]
 戦艦 [セン・カン]

 英語のライムタイプにはアソナンス・ライム(Assonance rhyme)という定義があります。CVC構造を持つ音節のV(母音)だけが一致しており、C(子音)がいずれも異なり、かつファミリー・ライムでもないライムタイプを差します。

◆アソナンス・ライム
dive [dάɪv]
line [lάɪn]

 重音節韻は、重音節の特殊モーラ要素が異なるライムタイプです。アソナンス・ライムと定義が完全に一致するわけではないですが、おおよそ近い定義だと考えています。


1-4 撥音韻(Nasal rhyme)

 最後は、今回初めて定義化する「撥音韻」です。名称は暫定。

 英語のライムタイプで言うところのコンソナンス・ライム(Consonance rhyme)です。

◆コンソナンス・ライム
fun [fˈʌn]
on [ɔːn]

dish [díʃ]
push [pˈʊʃ]

 ファミリー・ライムの項目で書いたように、日本語に尾子音が発生するのは基本的には「ン」(撥音・鼻音)しかありません。

 よって、日本語のコンソナンス・ライムは、最後のNだけが一致するライムタイプだと言えます。

◆撥音韻
餡 [アン]
韻 [イン]
円 [エン]

詩を書くひと。押韻の研究とかをしてる。(@sagishi0) https://yasumi-sha.booth.pm/