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iCAREを卒業することに決めました【退職エントリ】

2021年9月30日付で約3年働いた株式会社iCAREを退職することにしました。8月19日で最終出社も終了。少し落ち着いたので、退職エントリを書いてみました。

「退職者の視点から見て、iCAREってぶっちゃけどうなの?」ということと、iCARE卒業後の次の挑戦についてまとめようと思います。iCAREへの入社を考えてる人の参考になれば幸いです。

株式会社iCAREに入社した理由

僕がなぜiCAREにジョインしたかというと、「日本の産業保健をビジネス(スタートアップ)で変える挑戦をしたかったから」です。過労自殺の予防のために、産業保健を変える必要があると考えていたため。

学生時代に実はCarelyと少し似ている「CHO(シー・エイチ・オー)」というプロダクトを企画して起業しようとしていたのもあって、2018年の秋頃にiCAREの代表である山田洋太さんと出会って意気投合して。1時間で内定をいただいて、そのまま渋谷の4番サード魚真に飲みに行って。その場で内定承諾して、洋太さんと握手した証明写真を撮影し。気づいたらiCAREへの入社を決めていました。笑

「洋太さんとCarelyの開発と事業創りに挑戦したら、早いスピードで日本の産業保健変えられるかもしれないし、何より楽しいだろうな」と思ったのが1番の決め手。あと半年で会社のお金がなくなる状態だったけど、倒産したらまたゼロからやり直せばいいし、「やるしかない!」と。シリーズBの30名くらいの状態で参画。社員番号は「35」。今では恵比寿のイケてるスタートアップ感がありますが、その当時は渋谷の道玄坂のラブホ街にあるマンションの小さな一室でした。

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入社時はプロダクトも未成熟で、顧客対応のオペレーションも膨大で、Carelyでなかなか売上が立たず、Carely以外の売上の方がよっぽど大きいという状況で。人を雇うお金はないので朝から終電まで週7フルタイムで働いて。家に帰ってお風呂入ってから、ようやく落ち着いて戦略領域の思考と作業できるみたいなハードワークでした。(そのあと1度体調壊したので、過労死ライン超える仕事はやめるようにしました)

もちろん大変だったけど、「日本の産業保健を変えてやろう!」という夢に向けて、熱意あふれる仲間とバチバチ議論しながらがむしゃらに挑戦できて、スタートアップらしい充実した毎日でした。

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(※今はもう従業員数も100名を超えて、残業もだいぶ減っていると思います)

iCAREでやっていたこと

僕がiCAREでやっていたことは、カスタマーサクセス(CS)と健診WEB予約サービスの事業開発(PMM)です。

まずはカスタマーサクセスとしてプロダクトを活用した成功事例を1社に深く入り込んで創りあげて、オンボーディングの成功要因をチームに横展開してCSを組織化していきました。その後、テックタッチとハイタッチの基盤を築いて後任に引き継ぎ、健診予約代行のオペレーションを専門にするチームを立ち上げて健診WEB予約機能の開発・PoCを進めていきました。健診WEB予約機能のリリース後は、医療機関に対する営業・CS組織を立ち上げつつ、対人事の営業とCSのオペレーション構築の橋渡しをする役回りを担っていました。

詳しくはiCARE CSの2年間で残せた6つの成果と4つの学び
開発した健診WEB予約機能を使って、健康診断を受けてみた!
の2つのnoteを読んでいただけたらと思います。

四半期ごとに役割を変え新たな課題に挑んでいたのですが、10〜20人規模のCSチームを率いつつ、15名くらいのエンジニア・デザイナー・BizDevチームで新しいサービスを立ち上げるプロジェクトの責任者をやってきたのが1番濃い時間でしたね。不確実な無理難題に各々の武器を持ち寄ったチームで挑むというスタートアップの醍醐味を味わえて楽しかったです。大きな船に乗っているといつよりは、暴れ馬の手綱を握り損ねないように必死に食らいつく毎日って感じ。

「カンパニーケアの常識を変える」というiCAREのミッションが、僕の人生のミッションとも通じる部分があり、個人としても、会社の中でも、精一杯仕事に打ち込んでいました。産業保健やCSについてのnoteが少しバズってたりもして、産業保健界隈では「iCAREの田中」「産業保健の王子」というのがプチ有名人みたいな感じになって。商談で「田中さんって、あの"産業保健の王子"さんですか!?」って言われて、「はい、王子です」みたいな。

何の専門資格も持っていないのですが、熱意を持って1つの業界で4,5年がんばって愚直に実績を積み上げると、このくらいにはなれるんだな〜という小さな成功体験になりました。

いまでもnoteを読んでいただいた方から「ディスカッションしたい!」とご連絡いただけるのでとても嬉しいです。(いつでも気軽にDMください)

iCAREを卒業しようと思った理由

順風満帆だったiCARE生活。「ストックオプションを持ってIPOを果たして、一定のキャピタルゲインを得て、新しい挑戦をするのがサクセスストーリかなぁ」とかぼんやり描いていました。周りからもそう思われていたと思います。

そんな中で、「そろそろ卒業したいな」と感じた理由は2つありました。

1つは、入社時の「日本の産業保健を変えるビジネスを創る」という目的がある程度達成されて、iCAREでの仕事を続ける理由がなくなってきたこと。「もうiCAREとは闘いたくないよね」「Carelyには敵わない」と健康経営界隈の方から言われるほどに、Carelyは産業保健SaaSの分野で圧倒的なポジションを獲得しています。事業は「10→100」のフェーズになりました。組織も100名規模になり、プロダクトも洗練され、シリーズDの資金調達も無事完了し、自分がいなくても日本の産業保健がよくなっていく未来図がだいぶ高い解像度で見えていました。そのため、「自分が本当にやりたいことってなんだったっけ?」と自問するようになってきました。一度しかない人生、残りの20代後半どう使うのが良いんだろうと。あえて思考停止してiCAREに没頭してきたけど、このまま産業保健やiCAREに軸足を置き続けるのが本当に正しい道なんだろうかと。

2つ目は、自分自身の成長角度の問題。産業保健市場で、iCAREで事業を創ることが、僕にとっては「コンフォートゾーン」になりつつあったんですね。3年もいると、圧倒的な知識量、思考量、社内からの信頼、業界内での人脈を得られるので、仕事を円滑に進められて、自分自身の成長角度が鈍化していく実感がありました。どこかで区切りをつけて、新たな「アンコンフォートゾーン」に身を置きたいなと感じて、色んな人に相談して社内外の機会を探していました。

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過労自殺やメンタルヘルスの問題に、技術をビジネスで社会実装して貢献していく力を高めていきたい、という兼ねてからの想いがあったので、そこに対してiCARE社内で得られる機会と社外の機会を天秤にかけて比較検討した結果、たまたま魅力的なオファーをいただいたので、プロジェクトがひと段落して期の変わるタイミングで転職しようという決断に至りました。正直最初は「iCAREより魅力的な機会はなかなか見つからないだろうな」と思っていたのですが、運よく巡り会えた感じです。

相当iCAREに染まっていたので、体半分なくなるような感じで退職の決断は怖かったですけどね。「賽は投げられた、やるしかない!」と腹を括って。

ちなみに、転職活動には「for Startups」と「ビズリーチ」だけ利用していました。どちらのサービスもとてもよかったです。特にスタートアップでの転職を考えている人にはおすすめです。

iCAREの良かったところ

がっつりiCAREで約3年間働いて退職した身として、iCAREの良かったところを3つまとめようと思います。

【1】コミュニケーションの絶対量が多かった

iCAREはSlackの動きが超活発です。1日数百〜数千の投稿を読んで処理するので、情報処理能力が追いつかないくらいにコミュニケーションの絶対量が多いです。その分学びも多いです。

Slackの雑談部屋とかも毎日動いていて楽しいと思います。GJ CarelyというアプリでSlackで感謝の言葉を送る文化も根付いていて、テキストのコミュニケーションでも心地よいです。

変にギスギスした感じはなくて、無駄な社内政治を省略できるのもよかったです。本質的な課題に目が向いていて、出る杭を打つような文化はないですし、実力主義なのはありがたい限りでした。

ストレスフルな仕事をしている時でも、「しんどいなぁ」と感じることは少なくて、文化祭をやっているような感覚に近かったです。ヒヤリハットが起きたら秒でみんな助けてくれる感じで。スタートアップなので仕事のストレス要因は大きいが、緩衝要因(周囲のサポート)が大きいので心身のストレス反応は顕在化しにくいという典型例だと思っていました。

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(若手が活躍している職場です)

【2】SaaSスタートアップのリアリティを学べた

Carelyは企業の人事労務や保健師・産業医の業務を効率化するBtoB SaaSです。今後SaaS市場やサブスクリプションモデルのビジネスが伸びていくという話はよく聞くと思うのですが、まさにそのど真ん中で事業を創るリアリティを学べるのは大きいと思います。SaaSというとキラキラしたイメージを持つ人もいるかと思いますが、やっていることは企業のオペレーションの改善や受託なので意外と泥臭いことがいっぱいあるんです。iCAREはそこに正面から愚直に向き合っています。

実際、転職活動をしている中でも、SaaS事業を愚直に創り上げていった経験は相当高く評価してもらえているなと感じました。

また、IPO前後のスタートアップを社内から見たり、自社株を持ちながらIPOを経験するのは稀少な体験だと思うので、そういう意味でも魅力はあるかなと思います。「ほ〜、株主(投資家)からはこういうフィードバックがくるんだなぁ」とか。「ストックオプションってこういう仕組みなのかぁ」とか。

【3】市場価値が爆速であがった

事業を毎年2倍成長させているので、当然中にいる人も破壊的なスピードで成長を求められます。求める成長が手に入るかはその人次第ですが、事業を2倍成長させるためにあらゆる手段を尽くして爆速で仮説検証していく過程で、濃い経験ができるのは間違いないです。下からの突き上げの激しさで鬱になるレベルで若手が活躍しまくっているので、日々新しい刺激であふれています。

機会や仲間に恵まれて運がよかったのも大きいですが、僕自身も22,3歳でiCAREに入ってから2年半〜3年足らずで入った時の年収の2倍以上の求人でも内定取れるくらいにはなったので、しっかり努力して身になる経験をしていれば労働市場からも高く評価してもらえるんだなというのは自信を持って伝えたいところです。

iCAREに入る前に知っておいた方が良いこと

「これを知らずにiCAREに入ると不幸になる」と思うことがいくつかあります。悪い部分というよりは、iCAREの尖っているところ。強みと弱みは表裏一体なので、「なるほどな〜、でもやっぱiCAREで働きたい!」と思う人にぜひ入社して活躍していただけたら嬉しい限りです。

割と率直に思ってたことを書いてますが、もっと詳しく聞きたいという方は気軽にDMください。

【1】ドメイン知識が求められる

実務的に活躍する上でもですし、第一種衛生管理者という資格の取得が全社員必須なので会社の制度的にも「産業保健のドメイン知識」が一定レベルで求められます。「ドメイン知識はポータブルスキルではないのであまり勉強したくない」「餅は餅屋に任せて、自分は自分の専門スキルを磨きたい」「産業保健は興味ない」という人には合わないかもしれないです。

産業保健は労働安全衛生法や健康保険法など、法律が業務の骨格を支えています。法的文脈を理解しないと、そもそもCarelyというプロダクトがなぜ存在するのかがわからないと思います。その上に、ただの業務効率化システムではなく働くひとと組織の健康に貢献するには、疫学的な知見や組織開発の視点が求められるのが難しい。「人事」「保健師」「産業医」「医療機関」が主に対峙する相手になるので、専門用語がバンバン飛び交う会話についていく必要があります。

ちなみに産業保健についてこれから勉強する人のために書いた産業保健・健康経営のインプット大全があるので、よかったら参考にしてみてください。(入社後にも共有されると思います)

【2】10→100と、100人の壁と、シリーズDのジレンマ

事業フェーズが10→100になったこと、人数が100名規模になったこと、IPOに耐えうる水準のガバナンスが求められてくることが重なって、従業員への提供価値という観点で言うと「スタートアップの悪いところ」と「大手企業の悪いところ」が顕在化しやすいタイミングなのかなと思います。

きっと思ってるより泥臭いこと多いです。とはいえそれがBtoB SaaSのリアル。泥臭い現場を理解しつつ、どんどんスケールしていくので現場の課題解決をスピーディーにしないと詰む。でも、機能分化して全体像が掴みにくかったり、既にある仕組みが変革のボトルネックになったり、ルールも増えてきて、大きな失敗も許されない。そういう難しさがあるのかなと。

そのため、SaaSも産業保健/ヘルスケアも未経験という方だと、だいぶ荒波にのまれる覚悟が必要です。「ヘルスケアビジネスの知見や社労士・保健師レベルの専門知識を持っている」か、「ハードスキル(or超ハイレベルなソフトスキル)+広く浅い産業保健の知識を持っている」という2タイプの人じゃないと、中途半端な失敗経験になりやすい気がします。「看護師×CS」とか「エンジニア×産業保健のことめちゃ努力して学んでいる」とか、そういう人が大活躍しています。(もちろん、未経験で活躍している人もいます。あくまで確率論のお話。)

「これから伸びていくSaaS業界で働いて、市場価値を高めたい!」という理由での転職なら、まずはSmart HRやfreee、セールスフォースなどSaaS業界を牽引してきた組織で理想のSaaS事業と組織のあり方を学んだ上で、シリーズA,Bの数名〜30名くらいのSaaSスタートアップに転職して部門責任者として裁量を持って事業創りに挑戦するのがより堅実に市場価値上げられそうだなぁと個人的には思います。

【3】カルチャーフィットしないときつい

iCAREに入社した人の多くが「思ってたより文化が色濃い」と驚かれます。ビジョン、ミッションやCREDOや経営課題対するコミット・覚悟をめちゃめちゃ強く求められるので、人によっては「宗教っぽい」と感じると思います。リンモチほどではないですけどね。近しいレベルではあるかなと。笑

僕個人としては、産業保健や過労自殺予防への熱量が強かったので「カルチャーフィットは二の次だろ」と思っていて、あまり深く考えたことはなかったのですが、やはり組織の価値観は大事。カルチャーフィットしてないと、色んなところでズレが出てきます。

僕は学校っぽい集団行動を細かいところまで求められる感じが若干苦手なのですが、iCAREもその部分では合ってなかったかもなと振り返ると思います。(幼稚園のときから、みんなワイワイやってる横で、マイペースにひとり遊びするのが好きなタイプなのです。笑)

カルチャー浸透とのトレードオフですが、感染対策が求められリモート勤務やサテライトオフィスが主流になる中でもワンフロアのオフィスで全員出社を原則にしていたり、全社員第一種衛生管理者の取得必須にしていたり。もうちょいY理論でリバタリアンパターナリズム的な制度設計にしてもいいんじゃないかなぁ、と思う部分はいくつかありました。

事業会社としては1つの明確な事業に向けて組織を創る必要があるので、どこまで個々の裁量に委ねるかのバランスは難しいんですけどね。

もちろんその裏返しで、組織のカルチャーが会社の強みの1つと言えるレベルで強い文化が作られていると思います。iCAREの今の経営課題が何かを全社員が口を揃えて言えるみたいな。

カルチャーフィットできるかは、iCAREの色んな人と話したり、noteを読んでみたりして、事前に確認してみてください。TwitterにもiCAREの人は大量にいるので、気になる人にDMしてみると良いと思います。

iCARE社員のTwitterリスト

エンジニアも、セールスも、マーケも、CSも、BizDevも、ものすごい勢いで採用しているので、ぜひ興味ある人はiCAREの求人のぞいてみてくださいな。

次は「AI」×「社会課題」×「ビジネス」に挑戦します

iCAREを卒業した後は、株式会社エクサウィザーズで働きます。

「コンサルティングファームが、事業会社もやっている」みたいなイメージで、すごくユニークな会社なんですよね。大手のDX案件をやりつつ、自社でも社会課題に対してAIの技術と大手企業とのアセットを使って挑戦しています。「ジョイントベンチャーの組成」というソリューションまで提供していて、ファンドっぽい機能も果たしているんですよね。

技術をビジネスとして社会実装し、ヘルスケアの社会課題に貢献する力を磨いていきます。直近は介護領域のプロダクトを担当するので、介護分野の課題について議論したい方はぜひお話したいです!

個人では自殺予防を志す人のオンラインコミュニティ『自殺予防共創ラボ』の運営と、メンタルヘルス領域に特化したビジコン運営と、WEBメディアの運営を引き続きがんばっていきます。現在『Mental Health Biz』というWEBメディアを絶賛立ち上げ中です。9月中に正式リリースしてビジコンの応募も開始しようと思っています。あとは大学院で自殺予防・自殺対策の研究でも一定の成果を残したいです。

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「産業保健の王子」、「iCAREの田中」という看板を捨てるのは勇気のいる決断でしたが、引き続き社会課題をビジネスの力でちょっとでも良い方向へ変える挑戦を続けていきます。

とはいえ産業保健もまだ完全に離れるわけではなくて、日本産業保健法学会などには今後も継続的に関わり続けるつもりなので、産業保健関係の方も引き続き仲良くしていただけたら嬉しいです。iCAREにも何らかの形で恩返しできたらなと思います。

(iCAREからプロダクトマネージャーでオファーもらえるくらいの人材になるのと、iCAREに事業売却するのが密かな夢。笑)

iCAREでお世話になった皆さま、ありがとうございました。

今後ともよろしくお願いします!

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