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iCARE CSの2年間で残せた6つの成果と4つの学び

こんにちは!やすまさ(@yasumasa1995)です。
働くひとと組織の健康を創るBtoB SaaS「Carely」を提供している株式会社iCAREに入社してからもうすぐ2年になります。現在はカスタマーサクセス部(CS)で12名のチームを率いています。

CSのリーダーとして、失敗も、遠回りもたくさんあったのですが、思い出深い激動の2年間を過ごすことができました。その中でも、これだけはやり切ったなといえる6つのことと4つの学びを振り返ります。

bbq2020-09-23 12.38.42 午後 27

カスタマーサクセス部リーダーの役割

そもそも、「CSのリーダーの仕事」とは何でしょうか。僕は以下の3つを自分の役割と捉えて日々の仕事の軸としています。

【CSリーダーの役割】
・3年後の顧客に再現性高く成功を届けること
・CSのメンバーを成功へ導くこと(CSのCS)
・事業を持続的に成長させて営業利益をあげること

時間軸としてより中長期に、空間軸として顧客だけでなく従業員や他のステークホルダーも含めて、提供する価値に結果責任を負うのがリーダーの役割だと思っています。

1人の人間が組織に残せる成果

たった1人の人間にできる仕事の量は限られています。そのため、チームを創り1人では生み出せない価値を提供していくわけです。1人の人間が組織に残せる成果には3つの段階があります。

【ひとりの人間が組織に残せる成果】
1.突き抜けた「成功事例」を残すこと
2.成果を再現性高く生み出す「仕組み」を残すこと
3.成果も仕組みも創れる「人材」を残すこと

「成功事例」→「仕組み」→「人材」の順番で、あらゆる領域に「仕組み」と「人材」を残すことで、1人の人間が生み出せる成果にレバレッジをきかせていくことができます。

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僕は定型業務が苦手で、プロジェクトベースで仕事をする方が何倍も得意です。そのため、あらゆる課題領域に飛び道具として突っ込んで、爆速で成功事例を創り、仕組み化して後継者に引き継ぎ、また別の領域に挑むという働き方をかれこれ4,5年くらいしています。

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iCARE入社当初はこんな感じで入社理由と大切にする価値観・行動規範を整理してました。半年後に資金ショートしそうな状態だったのですが、「Carelyこそが日本の産業保健を変える唯一のプロダクトだ!」と信じていたので、絶対に成果を残すぞーと意気込んでいました。

以上を踏まえて、残せた6つの成果と4つの学びを振り返ります。

6つの成果と4つの学び

【1】Carelyを使った産業保健の成功事例

iCAREに入社した当時、Carelyは「従業員の健康」から「人事労務の業務工数削減」に事業の提供価値を大きく転換しようとしていた時期でした。「Carelyクラウド」と呼んでいた健康管理業務を効率化・一元化する機能を一気に2018年4月にリリースしています。このプレスリリースを何十回も読んでゾクゾクしたのを覚えています。ついに産業保健の全領域をカバーして多くの同業者から競合認定されかねない決断をしたんだなと。

日本の産業保健の常識を根底から変えられるスタートアップはiCAREしかいないなと確信して、僕はiCAREにジョインすることを決めました。

入社して驚いたのが「Carelyの機能がユーザーから全く使われていない!」ということです。プロダクトの機能自体は軽微な修正が必要な点はあったものの悪くはない状態でした。それなのに、リリースから半年経っていてもユーザーがほとんど利用していないんです。

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【Carelyのクラウド機能が使われていなかった要因】
・チャット相談とストレスチェック機能のみのニーズで契約しているクライアントがほとんどだったため
・CSメンバーの産業保健の実務理解とCarelyの機能理解が低かったため(機能を表面的に説明するだけで、具体的に課題解決の提案ができていなかった)
・Carelyのオンボーディングに工数を捻出できていなかったため

【やったこと】
・数社に注力して1社でも成功事例を創れるようにがんばる

僕は入社した時から産業保健に関する知識量と思考体力がだいぶ強めの産業保健オタクでした。仕事と関係ない暇つぶしで、「労働者が安全配慮されない権利を認めるべきだと思いませんか?」と洋太さん(社長)に論点をぶつけて議論するのが最大のストレス発散になっていたくらいに。笑
そのため、時間さえあればCarelyのオンボーディングで成功事例を創る自信がありました。

しかし、シリーズCの調達前で人員も少なく、プロダクトも未成熟で、CSは膨大なオペレーションに追われCarelyのオンボーディングをする余裕がないのが正直なところでした。顧客の業務を代行して請け負うサービスの「オペレーション」と、問い合わせに受動的に対応する「カスタマーサポート」の機能にとどまっていて、誰も「カスタマーサクセス」をやる余裕がないという組織状態だったのです。

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そのため、数社に選択と集中をして、捻出した工数は全てその数社のためだけに使うようにしていました。なるべく客先にも訪問し、深く顧客に入り込んで「1社でもいいから成功事例を創りあげる」ということに注力していました。その結果、Carelyを使った産業保健の成功事例を残し、そこから得られたオンボーディングの成功要因を他のクライアントに横展開していくことができました。

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ちなみに入社した頃からなぜかiCAREでは「王子(おうじ)」と呼ばれています。みんなが王子と呼ぶので、僕はみんなのことを星にしてみたのがiCAREブログの処女作でした。

【2】社長直下でカスタマーサクセス部の立て直し

入社から半年ほど経過しシリーズCの5.2億円の資金調達を無事終えた頃、CSは危機的な状況にありました。当初は僕1人の部門を立ち上げて、CS全体をコンサルティングする役割を担う予定だったのですが、組織が崩れかけていたためCSに出戻りし、社長直下でゼロからCSを再構築することになりました。

【CSが輝きを失っていた要因】
・減点方式の業務評価で新しい挑戦が加点評価されない組織だったため
・情報共有や連携がほとんどなく、個人事業主のような感覚で孤独に仕事していたため
・膨大なオペレーションに忙殺されて疲弊していたため

【やったこと】
・スーパーフラット型のトップダウン組織から、チーム制へ組織構造を変更し、ミドルリーダーがより細やかな業務支援やメンタルサポートをできるようにする
・チームごとに創意工夫をしてCarelyのオンボーディングの成功事例を創りボトムアップに集合知が生まれる仕組みにする
・「できたこと」にフォーカスした内省支援
・田中チームをハブにCSの育成と業務の標準化

CSの人材要件と研修プロセスを整理して、Carelyのオンボーディングスキルを全体的に底上げする仕組みを作ったり、ミドルリーダー層への権限移譲を進めて2階層化していったりしていました。ゼロから業務と組織体制の見直しをしていたため、論点パラダイスすぎてカオスでもあり、スタートアップらしく楽しい毎日でもありました。

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とにかくメンバーが「小さな成功体験」を積みあげていくことに注力して伴走し、自分の思考プロセスや学習プロセスを追体験してもらうことを大切にしていました。すべての業務領域に対して「再現性の高いプロセス」にこだわって標準化を進めていきました。

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1on1をすっぽかして、エントランスで爆睡して倒れてるくらいに洋太さんもこの頃は忙しかったみたいです。

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「めっちゃヤムチャみたいな格好で寝るやん」と思いました。

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【3】オンボーディングの成果指標

入社から10ヶ月ほどのタイミングで顧客担当を完全に引き継ぎ、僕はプレイングマネージャーを卒業して、マネジメントに専念するようになりました。顧客への提供価値の再現性を高めるため、わかりやすい成果指標をつくり戦略的なオンボーディングの管理ができないかを必死に思考していたのがこの時期でした。

【CSが抱えていた課題】
・いつどの企業にどの機能のオンボーディングをすれば良いのかわからないため余った工数を無駄にしている
・オンボーディングを頑張った結果うまくいっているのかどうかが効果検証できていない
・解約が少なく良いMRRと悪いMRRの違いがわからないため、CSとプロダクトの介在価値の低さに対する危機感がない

【やったこと】
・主要機能10項目の利用を客観的に計測できる指標(=サクセススコア)を作成
・サクセスの定義に基づきサクセスしているMRRも計測して最重要指標にする
・毎月サクセススコアを内省することでどのクライアントにどの機能をオンボーディングすべきかの戦術を練りPDCAを回す仕組み創り

「サクセススコア」「サクセスMRR」という概念を作り、指標を設計して合理的にオンボーディングの推進をしていました。製造業的なマネジメントスタイルで、機械的にどこの数字をどうあげるかの計画を立てて毎月PDCAを回していました。

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とにかく「成功事例を大量生産すること」に力点をおいて、注力顧客への的確なオンボーディングによって、効率的に利用機能数を伸ばすことに成功し、Carelyを活用した成功事例を多く創ることができました。指標が機能して、目標を2倍のスピードで達成し順調に成果を残せたのがとても嬉しかったです。

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成功事例のクライアントインタビューも増えて、CSがようやくCSらしくなってきました。属人的な成功事例がほんのひと握りしかなかった状態から、ある程度のケースで成功に導ける状態にCS組織が一歩成長した実感がありました。

メンバーとプロダクトの可能性を信じて、CSチームが再現性高く顧客に成功を届けれる状態を目指して奔走する毎日だったので、クライアントとCarelyのカスタマーサクセス担当が並んだ笑顔の写真を見るのはとても幸せです。インタビュー記事は読み返すたびにいろんなドラマを思い出して涙が出てきます。

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その後、サクセススコアの測り方は何度も作り直されて現場によりフィットする形に進化しています。

また、社内向けの勉強会iStudyでCarelyのオンボーディンング体感ゲームをつくってワークショップを実施したりもしました。

【4】Carelyのオンボーディング人材

入社から1年ちょっと経過した頃、チームも10名規模になり、1人でCSの全領域をマネジメントしていくことの限界を感じていました。「顧客数の増加」×「プロダクトの機能多角化」×「人員の増加」という3つの掛け算で論点が増えていくので、このままだともたないという危機感があったのです。そのため、KRごとにプロジェクト責任者をアサインして権限移譲を進め、「次のCSリーダーを育てる」ことを目指していきました。

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【2020年4月〜7月のOKR】
O:工数半分、成果は2倍でサクセスMRR●万円を実現する
KR1:SMB×テックタッチの生産性を4倍にする
KR2:健診代行業務の工数を1/4にする
KR3:Enterpriseオンボーディングの生産性を4倍にする

【CSが抱えていた課題】
・Carelyのオンボーディングは仕組み化の土台ができつつあるが、健診予約代行のオペレーションが最適化できていないため依然として足を引っ張っている
・大手企業や危険有害業務などより難易度の高い顧客への専門性の高いCarelyのオンボーディング体制が必要
・新型コロナウィルスの影響で健診予約代行のオペレーション管理の難易度が増す
・マネジメントキャパシティの限界

【やったこと】
・職能型の組織構造へ変更しCarelyのオンボーディングを専門に担うチームと、健診代行のオペレーションを専門に担うチームにわける
・上長にあたるCSマネージャーの採用
・CSメンバーをテックタッチ領域のリーダーに選任

Carelyのオンボーディングについてはたくさんの成功事例とノウハウがたまり、一定の仕組みもできあがっていたので、それを洗練させつつ「そもそもの理想状態」を再定義していくフェーズでした。

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・そもそも「テックタッチ」「ハイタッチ」とはどうあるべきか?
・今の事業フェーズにおいてCS組織の理想状態は何なのか?
・事業戦略とプロダクト開発計画と資本計画から逆算したときに今何をすべきか?

という問いに仮説を立ててどんどん戦術を推進していたので、「Carelyのオンボーディング」に関して完全に権限移譲して任せられる状態にできたと思えるようになりました。みんなCarelyのオンボーディングの経験値を積んで、明らかに高いレベルで顧客を成功へ導けるようになっていました。

そのため、CSメンバーからリーダーを選出した上で、Carelyのオンボーディング推進は完全に引き継ぎ、僕自身は「健診代行のオペレーション・マネジメント」「健診予約機能のプロダクト開発」に工数を振り切ることにしました。また、同時に顧客ベースのチーム体制から、職能ベースのチーム体制に大きく変更しました。

チームメンバーからCSのリーダーを輩出するという経験はなかなかに感慨深いもので、いまだに3ヶ月に1回感謝の手紙書いているくらい愛情を突っ込んでいます。

AIESECの後輩で僕のアイコン画像をデザインしてくれた木村の舞衣さんも2020年3月末に入社してから破壊的なスピードで学習しCSに欠かせない存在になっていて嬉しい限りです。

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CSマネージャーの採用も決まり、「健診予約代行のオペレーション・マネジメント」と「Carelyの健診機能開発」に本腰を入れて集中できる体制になりました。

新型コロナウィルスやCarelyの健診機能リリースに伴うオペレーションの刷新で不確定要素が多く、80%くらいの確率で負け戦になることが見えていたので正直不安だらけでしたが、2年後、3年後の事業成長のために乗り越えなければならない壁だったので、一筋の光を信じてやるしかないと腹を括って挑戦することにしました。

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【5】健診領域のプロダクト開発

事業課題として最も優先度が高い領域だった健診予約業務の開発でプロジェクト・マネージャーの役割をしています。「社運をかけたプロジェクト」とよく言われるのでプレッシャーがすごいのですが、開発チームとCSで連携を深めて1つ1つの意思決定と向き合っています。

健診予約業務は「健康保険組合」「会社ごとの方針」「医療機関」という3つの変数があるため、業務フローが画一的でなく標準化の難易度が非常に高いです。それはつまりシステム化も難しいということになります。汎用性の高い機能によって全ての顧客に同じ型を提供するSaaSの場合はなおのことです。

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開発の大方針として、2段階にわけて健診業務の全行程を自動化していくことにして、まずは定型化されていて要件がシンプルな業務フローの後半部分を先にリリースし、データベースの構造に合わせて現場のオペレーションも適合させて、その後前半部分の変数の大きい業務フローを開発するという方針で進めてきました。

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2020年6月末に、第1段の「予約確定後自動化」機能をリリースをしました。まだ手狭だったオフィスのホワイトボードで、「あぁでもないこうでもない」と頭を捻らせて開発チームと議論していたときから、ずっと描いていた世界が半分実現した瞬間でした。

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無事機能をリリースできたときの感動と、期待と不安を抱えながらもオペレーションをアジャイルに変革してうまく動き出したときの安堵感は忘れ難い思い出になりました。

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第2段の「健診予約自動化」機能は2020年12月末のリリースを予定しています。

実は、健診予約の内製化に僕はもともと反対していました。Carelyは「プラットフォームビジネスで競合優位性を創ること」に全資源を突っ込むべきで、その他の領域に資源分散するのは危険だと考えていて、そもそも健診予約代行事業を撤退すべきだと主張していたのです。健診予約の攻略難易度が高すぎて良い要件を創り切る自信がなかったという背景もあります。

そのため、健診予約システムの要件定義をしつつ、同時並行で事業提携によって健診予約をアウトソースするオペレーションを仮説検証していました。8ヶ月前くらいに、内製化に舵を切る意思決定をして、本気でCarelyの健診予約システムの開発要件定義にフルコミットしはじめました。「賽は投げられた」という感覚で、プロジェクトを前に進めていきました。

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健診の開発プロジェクトは毎週水曜日に1時間の定例ミーティングをしています。今ではプロジェクトメンバーも13名に増えました。個々に鋭い視点をもったチームで激しくばちばち議論を繰り返すことで、「これならいけるかも」と思えるアウトプットが出せて、これがチームで働く醍醐味だなぁと日々感じています。

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リリースから、パイロットでの仮説検証と機能・オペレーションの改善を繰り返して、半年先、1年先に本当の意味でのロールアウトになるので、そこまでやり切りたいと思います。

【6】健診チームの立ち上げとOPEX

2020年7月から、大胆な組織体制の変更をして、健診代行のオペレーションを専門で見るチームのリーダーになりました。この決断は僕にとっていろんな意味で大きな意思決定でした。

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iCAREに入社してから、Carelyのオンボーディングで大きな成果を残していて、どんな論点でも割と高い解像度で明確な仮説が描けて、自信をもって意思決定できる状態でした。自分が組織の天井を押しあげていく存在で、正解を仲間に教える側面が強かったです。少し天狗になっている部分もありました。

しかし、今回は「新型コロナウィルスによる予測不能な不確実性」と「苦手なオペレーション・マネジメントへの挑戦」の掛け算で、まったくKSFがわからず仮説を描けていない状態で、「できるかわからないけど、やるしかない」と覚悟して決断した初めての経験でした。不安なこと、わからないことだらけで、1人では到底、仮説を描くことすらままならない難題と向き合うことが求められました。伸びきっていた鼻は木っ端微塵になりました。

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そこから、現場の声に丁寧に耳を傾けて、仲間に教えてもらいながら1つ1つの論点を一緒に考えていくスタンスに大きく変化していきました。

【2020年8月〜10月のOKR】
O:健診代行の完遂と業務標準化
KR1:Carelyを活用し健診業務を標準化するための「各種雛形」と「運用ルール」を浸透しきる
KR2:全メンバーがGASを使って業務効率化できる状態にする
KR3:スキルと志向性を可視化し1on1/研修/360度評価を通じて強みが最大限発揮できるチームを創る
+@:Carelyの健診機能開発プロジェクトの推進

【健診チームを立ち上げた目的】
・コロナ下で難易度の高まる健診予約代行のオペレーションを横串で管理することで乗り越えること
・Carelyの機能開発/GASなどでのオペレーション変革のPDCAを爆速で回すこと
・1000社受注に備えたSMB/EnterpriseのCarely導入支援の仕組み化をより専門性高く推進できるようSMB/Enterpriseの専門チームを創ること
・権限移譲とキャリアパスの多様化ができる人事フローの土台を作ること

新型コロナウィルスの影響で4月〜6月に医療機関の休業が相次ぎ、営業再開後も健康診断の予約枠を通常の5割〜8割程度しか開放しないところも多かったです。そのため、健診受診ピークの波が7月〜9月に一気に押し寄せることになりました。通常の2倍程度にオペレーション工数がふくらむことが予想され、変化の激しい状況でなんとか乗り越えることが求められていました。

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サーバント型のリーダーシップスタイルでチームに奉仕することを決めて、「チームを守り切る」ということだけを考えて尽力しました。まずは採用を進めて合計6名を追加採用しつつ、徹底的にチームの声に耳を傾けて、困りごとを迅速に解決していくことを意識していました。

組織構造としては、稼働管理はチームごとに実施して、4チームがオペレーション遂行に集中し、横串でリソースの調整、課題の回収や仕組み化・標準化、トラブル対応などをリーダーが実施していく体制にしていました。縁の下の力持ちのようなイメージで、顧客と向き合う4チームを支えていました。

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僕はチームを創るのは得意なのですが、仕組みを創り切るのはあまり上手くありません。「最小工数でなんとか突破する」「細かいやり方はチームの力を信じて任せる」というマネジメントスタイルなので、標準化の甘さによって生まれた綻びでチームに負荷をかけてしまうことも度々ありました。OPEX(オペレーショナル・エクセレンス)への道のりはまだまだ遠いです。

7月〜9月の健診の稼働ピークを乗り越えて今があるのは、健診チームの1人1人が自分の役割を考え行動し、誠実な顧客対応とチームへの貢献をし続けていたからに他なりません。本当にチームには感謝してもしきれないです。

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以上が2年間で残せた6つの成果です。端的にまとめると、Carelyのオンボーディングについて、「成功事例」をたくさん創り、「仕組み」に落としこみ、「人材」を残すことに挑戦し、その後は「健診予約システム開発」「健診予約代行のオペレーション・マネジメント」に新たに挑戦をした2年間でした。

ありがたいことに引き継いだ仕組みは何度も改善を重ねられて、どんどん強い組織へと成長してきています。自分はゼロイチで仕組みの土台は作れても、長期的に仕組みの改善と向き合う忍耐力が低いようで、そこが強い仲間がいるのは恵まれているなと思います。

【洋太さんからいただいたフィードバック】
PDCAで言うPとDが秀逸であるものの、数ヶ月〜半年といった長期スパンでのCとAをやり抜く胆力、飽きっぽさを感じさせない安定した改善をもっと期待したいところです。たまに言動として忍耐や胆力が不十分に聞こえる場合があり、その点がリーダーとしての次の課題になるかと思っています。

(思い当たる節しかない)

4つの学び

この2年間、いろんなことに挑戦した結果、成功も失敗もたくさんあったので得られた学びはいくつもあるのですが、特に大きかった4つの学びをまとめます。

6つの成果と4つの学び

【1】意図的な指標によるマネジメント

1つめの学びは「指標」を作ることの影響力です。『「超」入門失敗の本質』で「戦略を決めること=指標を作ること」だと学び、それを実践していきました。

サクセススコアとサクセスMRRというオンボーディングの成果指標を作る上で、客観的に誰でも測れて、誰でも使えるシンプルなものにしようと努めました。また、指標を集計することが目的ではないので、指標の運用方法についても検討し、毎月数字を振り返り次の月の計画を立てるミーティングを設定したり、毎週の定例でも数字を共有して成功要因と失敗要因のシェアをしたりしていました。

良い指標を作っただけではうまくいきません。指標の運用ルールなどハードな側面と、メンバーへの指標の意図の理解促進やフィードバックへの反映などソフトな側面との両輪が回ってはじめて指標は機能します。数字の機微に対して「Why」を問い続けて、再現性高い知を考える思考回路がチームで共有できるとうまく回ることがわかりました。

【2】傾聴と意思決定の使い分け

2つめの学びは他者との「コミュニケーション」についてです。以前はビジネスの現場でのコミュニケーションは、すべて仮説を持って挑み、意思決定を目的にする姿勢で臨んでいました。意思決定のためのミーティングでは今でもその姿勢を貫いています。ところが、それだけだと衝突することも多かったり、現場で起きている課題の本質を捉えきれなかったりします。個の力だけではとても解決できない複雑性の高い課題にチームで挑むためには、徹底した「傾聴」の姿勢が求められます。

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毎週30分間のメンバーとの1on1では、心に真っ白なスクリーンを思い描いて、一度自分の仮説を全て捨てることで、フラットな心で相手の話を聴くことに徹するようにしています。相手の心と自分の心を同期させるような感覚で、認知プロセスを追体験させてもらうイメージです。

そして、「1度相手の心と同期してから、相手の言葉で自分の主張を話す」ということを意識しています。いまだにうまくできないのですが、直近数ヶ月で最も成長したのがこの能力だと思います。

人間は概念を言葉で理解するわけですが、使う言葉は人によって少し異なるので、「相手の言葉で話す」のが1番すんなりと咀嚼できるようです。相手の言葉で話すには、相手の興味関心に興味を持って言葉のストックを増やすことが大切です。

【3】強みと機会のマッチング

3つ目の学びは強いチームを創るための基本的な考え方です。チームひとりひとりの強みを言語化して、「まだ発揮できていない強み」と「機会」のマッチングをしていくことにこだわっていました。この視点は『プレイングマネジャーの基本』とドラッカーの『マネジメント』で学び、チームで実践して身につけていきました。

いわゆるSWOTの考え方で、弱みが顕在化しやすい機会は避けて、強みを最大限に生かせる機会に挑戦できるようにします。関連部署との横断論点も含めて機会を洗い出しておいて、1人1人について「どんな環境でどんな機会に挑戦するとその人が1番輝けるのか?」を考えます。

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短期的な全体最適を追わずに、1人1人の強みと向き合ってインクルーシブなチームを創った結果として、部分最適の延長線上に全体最適が生まれます。スキルや価値観が尖った人材同士が、お互いの違いを理解し、インクルーシブにチームの視点を拡張して影響力を強めていけるのが最強のチームです。

また、強みを発揮して難しい課題に挑むことは、フロー状態(没頭状態)に入りやすくワーク・エンゲージメントを高めることにも繋がります。自分の技能を拡張しつつ、ちょうど良い難易度の課題に挑戦できるよう目標設定をすると、仕事を楽しみやすくなるのです。


【4】最後に残るのは思い出と仲間だけ

4つ目の学びは仕事の「働きがい」や「成果」に関する認識の変化です。僕にはiCAREに入社する前から、「日本の産業保健をもっとよくして過労自殺をなくしたい」という夢があります。過労自殺者が減る仕組みが残せたら30才くらいで死んでもいいかなと思うくらいに、それ以外のことには興味がない人間でした。「働きがい=日本の産業保健をどれだか変えられたか?」で、目的合理の全か無か思考が強かったです。

前職では「一匹狼」という言葉が本当にぴったりなくらい、いつも1人でスタンディングデスクで作業していて、ミーティングでめちゃくちゃ激しく主張して、18時に帰る生意気な人間で。組織に属して仲間と群がるのが苦手で、ドクターXの大門未知子のような生き方に憧れていました。

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この2年間で、1人ではどうすることもできない大きすぎる不確実と向き合い、自分の至らない部分をチームに何度も助けられながら組織を前に進めてくることができました。いかに自分が無力なのかを思い知って、心が折れかけて人間の脆さも知ったことで、ひとの強みと正面から向き合えるようになりました。ひとの持っている良い部分に自然と目がいくようになったなと。

産業保健をよくしたくて挑戦しているのに、最も身近で大切な自分のチームの中で理想の産業保健を体現できていない事実に気づかされたときに、自分が本当に大切にしたいものはなんなのかを見つめ直すことになりました。「チームをこんなに傷つけてもなお残したい成果ってなんなんだろう」という自己矛盾と葛藤し、仕事観・人生観を再構築していきました。

結果にはこだわるし、過労自殺をなくす夢のため地位財も追求します。でも、大きな成果を残せたとしても、そのプロセスが美しくなければ心から喜べないです。成果と価値観の両方を大切にする視点や、地位財と非地位財から享受する幸せのバランス感覚に調和がとれてきた気がします。「結果がすべて」という考え方から、「結果もプロセスも大事だし、むしろプロセスにこそ人生の深みが生まれるものだよね」という捉え方に変化しました。

いろいろあるけど、本当に組織で働くということは面白いです。

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象徴的な出来事として、四半期の終わりに健診チームでディズニー・ランドに行ったことがありました。色んな逆境を乗り越えて、言葉で表現しきれないほどに深い文脈を共有した仲間とだからこそ、楽しかったです。「あぁ、この瞬間のためにがんばってきたのかもなぁ」と素直に嬉しく思いました。

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僕は人混みが苦手で満員電車やテーマパークをなるべく避けるようにして生きています。同期との卒業旅行で大阪に行ったときに、みんながUSJを楽しむ中で1日中USJ付近のスタバでカフェラテを飲んで待っていたほどです。まさかその自分が会社の仲間とディズニーに行く日がくるなんて。しかも9:00〜21:00で丸一日。

自分が想像していなかった自分に出会えるのが、怖くもあり、楽しくもあります。楽しいことも大変なことも、失敗もいっぱいあったけど、いろんな物語をみんなで彩って歩んでこれた思い出と仲間こそがかけがえのない宝物だなと思うのです。

何万社もある中で同じ会社の同じチームで働いていて、月160時間も一緒に過ごしていて、お互いがちょっとでもプラスの感情を与え合える関係性なのだとしたら、それは奇跡です。成果へのこだわりは揺るがずに持ち続けながらも、仲間と歩んでいくプロセスを心から楽しみ、等身大の自分で夢を追っていきたいです。

私たちは「数値化の世界」に住んでいる。数値化に慣れると数値化が真実を表していると思うようになりがちだ。だが、数値化できない真実はたくさんある。この事はリーダーシップを実践し、目標を達成できなかったという結果を突き付けられた時に重要だ。リーダーシップを実践する人が絶望に陥ってしまうケースのひとつに、まだ達成できていないことばかりを見てしまうときがある。あるいは「善は数値化できる」と考え、もっともっと数値を上げようと思ってしまう。だが、自分が達成したいと願うことの全てを達成することはできない。リーダーシップの実践に必要なのは「人々に対して愛情を注ぐ」という行動を通し、小さな善を行えたという自分の成果を嬉しく思うことである。(ロナルド・ハイフェッツ教授)

働くひとと組織の健康を創る

今年の夏に、学生時代の同期2名が脳・心臓系の疾患で急死しました。同期が亡くなるのは初めてだったのでさすがにショックでした。著名人の自殺報道も重なったため、ひとの生き死にを考える機会が最近多いです。

僕らの事業をあと2,3年早く成長させられていて、彼ら彼女らの健康をCarelyで支えられていたとしたら、0.1%でも救えた可能性があったのかなと思うと無念です。改めて「働くひとと組織の健康を創る」というビジョンを絵空事に終わらせず、現実的・具体的な価値として働くひとに届けていくことの意義を問い直すと同時に、自分も周りの大切なひともいつ死ぬか分からないことを理解して、悔いなく一瞬一瞬を生きたいと想うきっかけとなりました。

「働くひとと組織の健康」という意義深いビジョンに向けて挑戦を続けるこの船に乗っていることに誇りと希望をもって、変化や成長を楽しみながら、仲間への愛を忘れずに、これからもカンパニーケアの常識を変える挑戦を続けていきます。

次の僕自身の課題は「ゼロイチのメンタルモデルからの脱却」です。リソースがなさすぎる中で「最小工数で突破する」という思想は、ゼロイチの成功体験から僕の中で強固な信念として染み付いています。ビジネスをスケールさせていくフェーズでは、この考え方は通用しません。iCAREはここからユニット・エコノミクスを健全化しつつ、一気に広告宣伝費に投資してビジネスをスケールさせていく事業フェーズに入ります。本当の意味での中長期的な全体最適、標準化、オペレーショナル・エクセレンスの難しさと向き合うことになると思います。

素敵な仲間たちとともに、次はどんな物語を創れるのか心から楽しみです。

リスクをとって挑戦することは尊いです。結果がどうであれ、自分に対しても、他者に対しても、それを認められる人間でありたいと思います。

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【リーダーシップ・マネジメント系】
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マネジメント[エッセンシャル版] - 基本と原則
ディープ・チェンジ 組織変革のための自己変革
プロカウンセラーの聞く技術
嫌われる勇気
人を助けるとはどういうことか

【産業保健・人事労務系】
職場の健康がみえる 産業保健の基礎と健康経営
産業保健ハンドブック
産業医はじめの一歩
「人事・労務」の実務がまるごとわかる本
ステージ別 ベンチャー企業の労務戦略
企業にはびこる名ばかり産業医
最新重要判例200[労働法]
メンタルヘルス・マネジメント検定試験公式テキスト I種

2021年6月末まで、クラウドファンディングを実施しています!上記ページを見ていただけたら嬉しいです。自殺予防やメンタルヘルスに関心のある方はTwitterなどで気軽にご連絡ください。

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