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”民主主義の機能不全”読書note100「文学部の逆襲」波頭亮著

民主主義、および資本主義のやり方に大きな弊害が起きている現在において、世の中に大きな「物語」を提示できる文学部(哲学や社会学を含む大きな意味合い)の復活を期待するというのが、本書の要約であるが、本書の意義はその前半、自由と平等を旗印とする民主主義、そして多くの国家が採用している資本主義の危機を訴えている部分こそが、最も重要で大事な部分であると感じた。

民主主義とは社会を構成する人々が自分たちの手で国家のあり方や政策を決定できる社会運営の方法論である。(中略)民主主義にとって重要なのが、自由と平等という基本理念である。
自由と平等という二つの理念に対するウェイトの置き方が大きく異なった政治形態として、資本活動の自由を最大限に重視した資本主義と人民の平等を最大限に重視した社会主義との対立的併存である。

「自由」と「平等」は同じベクトルではなく、お互いに影響し合い、そのバランスのとり方によって異なる運営形態を要求するものであるという解釈がとても印象に残る。

再配分/社会保障という支え(平等への配慮)があってこそ、資本主義経済の有効性と健全性が担保される。(中略)資本主義経済において自由を尊重し、市場メカニズムに委ねる形で経済を運営すれば、必然的に格差と貧困が生まれる。その格差と貧困が増幅すると社会全体の活力が失われ、経済全体の成長が損なわれる。
アメリカでは2007年時点では上位1%の超富裕層が国の全ての資産の35%を所有しおり、次の19%の富裕層が51%を所有している。従って裕福でない中間層以下の80%の国民は残りの僅か14%を所有しているに過ぎない。一部のものだけが富み、大多数は豊かになれないでいるという現象、即ち格差の発生こそ、新自由主義経済がもたらす最も重要かつ深刻な問題なのである。
この30年間は日本においても新自由主義の時代であった。新自由主義経済の定番である規制緩和、公営企業の民営化、公共事業の圧縮、福祉予算のカットが次々と進められて来た。そして、教科書通りに格差が生まれた。一つが企業と国民の格差であり、もう一つが富裕層と貧困層の格差である。

そのような新自由主義経済による民主主義体制の危機を打開するために、叡智として哲学、文学、歴史学といった人文による”物語”の力が必要と筆者は説いているが、その可能性には首をかしげてしまう、後半は説得力に欠ける感じを受けた。

ただ、新しい運営方法としての物語が必要とされている事だけは、切実に感じる事ができる一冊である。

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