雲とタバコの煙の行方。

またか。
私はハンドルを握りながら、小さく溜息を落とす。
彼からメールが届いたのは、長い踏切待ちをしている時だ。
『子どもが熱を出した。ごめん。今度埋め合わせするから。』
事務手続きの書類のような、素っ気ない文面から彼の焦りが垣間見えた。

素直に悲しい気持ちがこみ上げてくる。
また会える口実ができたという嬉しさが後を追ってくる。
私が彼の一番の存在になることはできないという、悲しさがこみ上げてくる。
彼が約束をしていた私ではなく、体調の優れない子どもを選んだことで、彼の優しさに少し嫉妬する。
けれどそれは、結局は自分に向けられた優しさなのではないかと、自分に言い聞かせて納得をする。

私は車の灰皿から、口紅のついていないタバコの吸い殻を咥えて火を付けた。
カンカンと大きな音を立てながら目の前の踏切を電車が通過する。
そして目の前には悲しい程の青空が広がっていた。
私は今日一日の予定を思い出しながら、煙をフロントガラスに吹きかける。
雲のようにガラスに張り付いた煙は、行き場をなくした私の様に見えた。
その雲は煙の様に消えて、彼の匂いを残していった。

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