食事と愛の関係性。

『好き嫌いは良くないよ。』

彼女の鉄板の上には一切れだけ残った肉と、付け合わせのニンジンが残されていた。

「嫌いなもので、お腹を満たしたくないの。」

彼女はそう言うと、最後の一切れを口に運んでグラスに口をつけた。
そして彼女は続ける。

「食事をすることは、愛に似ていると思わない?」

僕は彼女の言葉の意味を理解できず、少し考えて答える。

『愛しいものしか食べたくないってこと?』

彼女は少し笑うと、グラスについた口紅を拭きとって答える。

「少し違うわね。食べられても良いと思うものしか、食べたくないの。食べても良いってことは、食べられても良いってことじゃないかしら?」

彼女の思考回路は、よく分からない。
けれど、筋は通っている。
ただの詭弁でしかないと分かっているのに、僕には付け入る隙が見当たらない。

『じゃあ、君は牛に食べられても良いの?』

彼女は答える。

「そうよ。魚にだって、鳥にだって、牛にだって食べられたって良いの。でも、ミンチにされるのは嫌。だから私は、ハンバーグは食べないの。」

僕は彼女の言葉を聞くと、彼女のニンジンに手を伸ばした。
彼女は頬づえをついて、僕を眺めながら言う。

「食べられても良いって思えることは、愛なんじゃないかな?私は貴方に、食べられてたって構わないわ。」

僕はニンジンを口に入れると、口にナフキンを当てて彼女を見つめた。
彼女は僕が喋れないことを良いことに、言葉を続ける。

「だから、貴方を食べても良いかしら?」

僕はナフキンで隠している口角を少し上げて、小さく頷いた。
口に含んだニンジンからは、彼女の嫌いな味がした。
彼女は「美味しい?」と僕に尋ねると、少し笑ってグラスに口をつけた。

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