眠れない夜の話。

彼女は白い天井を見つめながら言った。

「人生の3分の1が布団の中ってことは、それだけ一緒にいられるってこと?毎日一緒に眠れるなら、それだけ長い時間一緒に過ごせると思う?どうしたら、毎日一緒に眠れるの?」

僕は、いつもより広く感じる白い部屋を、彼女の心の空白のように感じた。
そして彼女に言う。

『恋をすることが大切なんだと思うよ。ずっとずっと。お互いがお互いの気持ちをいつも刺激しあうように。』

すると彼女はまだ天井を見つめたまま答えた。

「でも刺激しあっていたら、眠れないじゃない?ドキドキするでしょ?」

僕はその回答をとても可愛く感じたが、彼女に真剣に答えた。

『でも、眠れない夜を過ごすことが恋をすることなんじゃない?』

と言いながら、あくびをする自分の言葉に説得力があるのか疑問にも思えた。
しかし彼女は僕の言葉に納得したように

「なるほどね。」

とつぶやいた。
そして続けて言った。

「でも、そんな毎日が続いたら、私は不眠症になってしまうわ。」

それを聞いた僕は焦った。
今、彼女が不眠症でないということは、僕に恋をしていないということなんだろうか?
僕が不眠症でないというのは、彼女に恋をしていないと言うことなんだろうか?
考え事をしている僕を彼女は見抜いたように言う。

「でも、それは極論ね。眠れない夜を過ごすこともあるけれど、私は君が居ると安心するんだもの。君が居たほうが、よく眠れるんだもの。」

その言葉を聞いて安心した僕は、彼女に恋をしているんだろうか?
きっと、眠れない夜を過ごすこともあるけれど、眠れない夜には、眠れない夜なりの楽しみがあるんだろうと。

彼女のシャンプーの香りを感じたり、彼女のほっぺたをつねってみたり。
そして、彼女の鼓動を感じてみたり。
きっと、そうしたいと思えることが恋なんじゃないかと。
そして彼女に言った。

『僕の隣でずっと眠っていて?』

すると彼女はやっと僕の方を見て言った。

「その言葉を待ってたの。きっと、その気持ちが恋なのね。ずっと一緒に眠りたいって思えることが恋でもあるのね。」

そして僕は彼女に言う。

『一緒に眠ろうか?』

小さく欠伸をする彼女を見て、僕も欠伸をした。
そんな僕を見て彼女は、涙を目に溜めて少し笑った。

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