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表参道のセレブ犬とカバーニャ要塞の野良犬と僕

僕はエッセイがあまり好きではない。

理由は自分に都合のいいことしか書いてないから。もちろんそんな自分都合なエッセイばかりではないが、ページをめくっていくにつれて「ドヤ!」ってくる文章が手を止めてしまうことがあった。

そんなことから、いつからかエッセイを読まなくなったが、実は自分の人生を変えた一冊はエッセイだったりするし、エッセイに背中を押されることも......そんな背中を押してくれる一冊が「社会人大学人見知り学部 卒業見込」。

4年分のコラムをまとめた一冊で、売れない時代から売れてからの心境の変化まで、オードリー若林が形成されていく様が描かれていて、何も言わずに手を差し伸べてくれるようなエピソードがギュッと詰まっている。

そんな若林正恭氏がキューバへひとり旅へ行った紀行文が「表参道のセレブ犬とカバーニャ要塞の野良犬」だ。

キューバへのひとり旅

これがただの紀行文ではなく、心情の描写はもちろん、情景の描写まで鮮明に書かれている。これだけではただの紀行文だろう。

そもそも、紀行文など読んだことのない僕が言ったところで全く説得力がない話だが、この本を読んで何かを感じない人間はいないと思われる。

そもそもひとり旅にキューバを選ぶセンスがすごいし、文面から伝わってくる感受性豊かな表現力はどこから身に付けたのかマジで教えて欲しいくらい。そんな嫉妬感を抱くほどの文才に惚れ惚れする。

度々書籍の中で登場する「新自由主義」っていまだに理解できていないが...

新自由主義 ( しんじゆうしゅぎ ) とは、政治や経済の分野で「新しい自由主義」を意味する思想や概念。初期の個人主義的で自由放任主義的な古典的自由主義に対して、より社会的公正を重視し、自由な個人や市場の実現のためには政府による介入も必要と考え、社会保障などを提唱する。

ここまで解説されても、僕の頭では理解ができておらず、自分の欠落した理解力に嫌気がさしてしまう。

競争する灰色の街

紀行文とは「旅行の行程をたどるように、体験した内容を記した文」だが、社会主義国家であるキューバを旅することでの体験は「東京」への違和感だったりする。

東京は、肩書やステータスにこだわる人種が多く生息している競争する灰色の街だと。

競争したい訳じゃないのに、競争しなきゃ生きていけないシステムだ

今のSNS社会の中でも似たようなことを感じるが、「何者かになりたい人たち」が自分を殺して、「何者」であるか?というところで競って表現していたり、インターネットから人間味というものを感じなくなっている。

そんな東京に嫌気がさしてくるわけだが、東京は最後の章にタイトルにもなっている。書籍の最初の章が「ニューヨーク」、そして「東京」に挟まれる形でキューバの話だが、構成の巧みさにも驚かされた。

自分の欠落に感謝

昨今言われている「生活の質」や「幸せ」も、日本が勝手にそう仕向けているだけなのかもしれませんね。幸せという名の競争によって、また人間味がそぎ落とされていくのだろうか。

そしてあとがきがまた秀逸。

まさか、自分の欠落に苦しんできたことが、誰かを生かすなんて思いもよらなかった。初めて自分の欠落に感謝した。俺にとっての自信とは、欠落があったからこそ巡り合えた価値だ。

ここで欠落ということが評価される価値だということを述べているが、自分の欠落した部分に感謝をした人間は多くはない気がする。僕は欠落だらけの人間だからこそ、こんな一冊に勇気をもらえる。

本来、欠落と呼ばれる部分は、日本の競争社会だからそのように呼ばれているだけなのかもしれないが、文庫に掲載された「あとがき」は何度読み返したか分からない。

世間を気にする日本人

本当に他人のことをよく見ているし、他人に見られていることを意識している。
(中略)
あの人、あの人、あの人・・・・・・の連続。それが世間だ。本当にこの国の人は、他人のことを良くも悪くもあれこれ言っている。

今のSNSに飲み込まれている社会を体感するのにふさわしい一文。

評価経済社会、信用経済とかお金を持っているよりも自分の影響力みたいなものが将来の資産になるという時代の中で、他人を気にして勝者になりたがる。

世間を気にすることは国民性なのかもしれないけどさ、もう少し生きやすい世の中にならないかな。争いなく手を取り合って成長できる世の中にならないものかな。

幸せとは何か?自分が大事にしていることは何か?そんな疑問を持った時に手に取ると、背中を押してくれるかもしれない。

だらだらと書いていても終わりそうもないので、そろそろ締めようと思うがまずは、この本を通して、キューバを知るというよりも、若林正恭を知れた気がした。

もちろん、テレビで見かける芸人・若林正恭ではなく、もうひとりの若林正恭です。それくらい生々しい心の叫びと愛の深さがこの一冊には詰まっている。

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