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🔥激辛戦記🔥〜さらなる辛味を目指して(味仙編)〜

僕はチャレンジャーである。

まだ自分が辿り着いたことのない極地を追い求め、挑戦を続ける。

これまでも、これからも。

....…

僕は、退屈していた。

2023年12月某日。
僕は、最も倒したいと願ったヤツをこの口で葬った。

そう、CoCo壱最強の辛さを誇る「20辛」を。

僕は「20辛」を完食すべく、人生の全てを捧げた。

限りある時間を使い、未知の辛さに対抗すべく訓練を重ねた末にヤツを撃破した。

その強敵を倒してしまったのだ、心に虚無感が生まれるのも無理はない。

あれから5ヶ月という歳月が経ち
辛さとは無縁になった僕はいつもと変わらない日常を送っていた。

2024年5月。

体を動かす仕事を終え、時計に目をやると13時を指していた。

お腹がすいた。

「よし、お昼ご飯に行こう」

会社の同僚であるK藤氏と外へ食事に出かけた。

「どこで食べようかな〜」

当てもなくご飯屋さんを探していると.…

ゴゴゴゴゴゴゴォォォ

なんという威圧感だ。一瞬にして緊張が走る。

「辛いヤツがいる」

あまりの強い“辛気”に一瞬たじろいた僕はそれを恥ながら、上を見上げた。

『味仙』

看板にはそう書いてあった。

名古屋で大人気の中華料理屋だ。

店の中から溢れ出るただならぬ辛気の中、心して店に入る。

中国や台湾出身であろう店員が我々を迎えいれた。

「ここがお前の墓場だ」と言わんばかりの、笑みを浮かべながら。

「3番の席にどうぞ」

席に案内され、メニューに目をやった。

ゴゴゴゴゴゴゴォォォォ

「台湾ラーメン」

先ほど感じた辛気はコイツが放っていたのか。

メニューの文字だけで辛さを感じ、武者震いがする。

平和ボケしていた僕の辛さの直感はすぐさま鋭く尖り、あの時の感覚が蘇る。

僕はコイツをCoCo壱20辛をしのぐ強敵とみなし、注文をした。

「台湾ラーメン イタリアンで」

名古屋なのに台湾ラーメン
台湾ラーメンなのにイタリアンという

破綻したネーミングにさえ恐怖心を抱く。

この珍妙な名前だが、イタリアンは標準の台湾ラーメンの2倍の辛さを誇るラーメンだという。

目の前でK藤がチャーハンを食べ終わった頃に、激辛台湾ラーメンが僕の前に現れた。

すぐさま僕の五感は全てを察知した。

コイツはやばい。

真っ赤なスープに目を焼かれ、鼻には突き刺す辛い匂いが、皮膚はヒリヒリと痺れ、唾を飲み込み味覚は臨戦体制となって、耳は…ついている。

そして覚悟を決め、

「いただきます」

まずは真紅に染まったスープをすくい、口に運ぶ。

「げほ!げほ!からい!!からい!!げほ!」

めちゃくちゃ辛い!のとめちゃくちゃむせる!のが同時に来た。

驚くほどむせる。

口に入れたまさにその瞬間からツンと辛い匂いを鼻が吸い込み、辛味が喉を刺激してむせる。

「かっっらーーー!!!!」

「あかん!ほんまにあかん!辛すぎる.…!!!」

この辛さから救われるなら、綱なしでバンジーを飛ぶ。

あまりの辛さに、僕は尋常じゃないくらいビビリ散らかした。

「一口でこれ!?」

食べ物は残さないと決めている僕に、初めて「残さないといけないかも」という選択肢が浮かんだ。

目の前に座るK藤氏は、悶える僕を見てドン引いている。

しかし、僕はコイツを倒すためにやって来た。

やるしかない。

辛くてむせるので、麺はすすれない。

口に入れて噛み切り、咀嚼する。

この方法で食べ進めるが、全然麺は減らない。

辛すぎていちいちリアクションしないと食べられない。

なんとか辛さを緩和できる食べ物はないかと、メニューに目をやった。

「これだ!!!」

メニューの中から「ご飯(中)」を見つけ出し、大急ぎで注文した。

ご飯の甘みで辛味を相殺する考えだ。

よし、いける。

しかし、その期待はすぐに裏切られた。

「痛い!痛い!」

口が悲鳴をあげている。

辛味でダメージを受けている口内に、熱々のご飯が入りこんできたのだ。

ご飯一粒ずつの角が口の内壁に刺さってる感覚がして、とても辛痛い。

「ミスった」

ご飯の注文により、敵が増えた。

汗を大量に流し、ぐちゃぐちゃになる顔にK藤氏はまたドン引いていた。

僕は最終手段に出た。

麺を取り皿にとって冷まし、唐辛子くんたちを少し落とす。

激辛に挑戦するものとして、愚行 of 愚行をやった。

こうまでしないと、食べ切る未来が見えない。

一口ずつ覚悟を決めて、ヒーヒー言いながら汗をダラダラ流して食べる。

そして、なんと最後の一口に。

一気にかき込んだ。

「ごちそうさま!!!」

激辛味仙の台湾ラーメンイタリアンとの激闘はついに終わった。

ん?スープが残ってるじゃないかって?

そんな野暮なことは言ってくれるな。

スープを飲んだら辛さで、人格が変わってしまうかもしれない。

だから、今回は「食べ切った」とはいえない。

唐辛子を落とし、ご飯を食べ、スープを残した僕は台湾ラーメンに

負けたのだ。

ヤツは本当に、本当に、本当に辛かった。

一から出直し、辛さに対抗するため鍛錬を積むことには…しない

僕の激辛戦記はここで幕を下ろすことにする。

ナカイという名前も、アマイ(甘い)に改名するとしようか。

僕は店を出て少し雨が降る中、体から汗がいていくのを感じた。

.…

ここまで読んでくれてどうもありがとう。

味仙の台湾ラーメンイタリアンがいかに辛いか伝わっただろう。

この戦記を読んだ者には億劫かもしれないが、ぜひ挑んでみてほしい。

辛さのその先を味わえるのだから。

激辛戦記(完)



〜あとがき〜


味仙の台湾ラーメンは辛味の中に旨みがあって本当に美味しいよ。

味仙の台湾ラーメンは

アメリカン→普通→イタリアン→アフリカン→エイリアン

の順で辛くなっていくよ。

イタリアン以降はメニューにも載っていない裏メニューだからね。

次の日仕事がお休みの時にチャレンジしてね。


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