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Fit For An Autopsy / Oh What The Future Hands(2022、US)

モダンなアグレッション表現の完成度 ★★★★★

US、ニュージャージーで2007年に結成されたデスコアバンド、フィットフォーアンオートプシー。本作はドイツのニュークリアブラストレーベルからリリースされた3年ぶり6作目のアルバムです。TIDALのレコメンドに出てきて、冒頭聞いてみたら引き込まれたので全体を聴いてみました。最初聞いた感じだとけっこう硬派なメタル感があったんですが、Metallumでは掲載されておらず。Metallumってコア系のバンドは載っていないんですよね。そのあたりの線引きはけっこう議論にもなっているようですが。かつてパンクとメタルの線引き、みたいな議論がありましたが、今でも(ハード)コアとメタルの線引き問題というのはありますね。中間点に位置するようなバンドが増えている。まさに「メタルコア(メタルよりだけれどかなりハードコア的な手法を入れている)」とか「メタリックハードコア(ハードコアだけれどかなりメタリックな曲構造やリフがある)」とか、微妙な差異。ここの「好き」の度合いは個人差があって、ゴリゴリのハードコアが好きな人はメタル要素が一定以上になるとダメだし、逆もしかり。基本的には歌い方のスクリーム度合の比率や、メロディの有り無し、ブレイクダウンの有無みたいなところか。共通するところもありますが、それぞれのジャンルで特有の特徴的な手法(スクリームとかクラシカルなソロとか)があって、そのあたりは人によって許容度が違う感じ。ただ、一番の違いは「ヘドバン向き」か「上半身を大きく揺らす感じ」かの「ノリの差」な気もします。

さて、本作を聴いてみた印象ではどちらの要素もしっかりあるというか、かなりメタル色が強い感じ。ハードコアにはギターソロは基本的にありませんが、かなりかっちりしたリフやギターソロがあります。むしろテクニカルデスメタルやプログ・メタル的。弦楽器隊のメロディが豊富で、メロデス的な場面も出てきます。激烈な音像、スクリーム、音圧の高まりから静寂で美しいギターソロへとつながる美醜のコントラストが美しさを際立たせる曲もあり、「現代USエクストリームミュージックの最前線」的な趣も感じます。さまざまな手法をうまくミックスして衝動やアグレッションを表現している感じ。USのバンドながら欧州的なメロディアスさがあるのはドイツのニュークリアブラストからリリースされていることもあるのでしょう。どの曲もアグレッションをしっかり保ちながらその中でバラエティを持たせてアルバムを最後まで聞かせきる力がある。「激しい音楽」を求めている方にはおススメ。

A1 Oh What The Future Holds 2:51 ★★★★

荘厳な雰囲気でスタート、浮遊するようなSEの中でピアノの音がゆっくり響く。絶叫と共にバンドが入ってくる。そこから強烈なブラストビート。けっこうデスメタルな感じだけれどなぁ。リフもメロディアスだし。ボーカルはハードコアスクリームだけれど、受ける感覚はデスメタル寄り、メタリックな整合性、リフの刻み、メロディ感はしっかりある。

A2 Pandora 4:36 ★★★★☆

かなりメタリックなリフからスタート、前曲から引き続きで入ってくる。ドラムの連打は機関銃の乱射のようで正確で力強い。この曲は北欧メロデス、At The Gatesとかにも近いものも感じる。ギターソロもメロディアス。

A3 Far From Heaven 4:44 ★★★★★

メロディアスなスタート、これはプログレッシブデスメタル的な感じ。テクデスほどテクニカル(個々人の技巧にスポットを当てる)ではないが、曲構造や変拍子はプログ的。これは全体的にかなりメタリックな感じだなぁ。Gojiraの「Another World」に似た感じというか、ほぼ同じような構成のコーラス。この曲はモダンなメタルだな。

A4 In Shadows 3:57 ★★★★☆

これはデスコア、ガテラルボイスも用いながらガラガラとしたボーカルに乱打するドラム。コーラスでは多少解放感がある歌メロが出てくるのはスケール感を感じさせる。Blood Incantationとか、最近のUSの新世代デスメタルバンドたちと通じる空気感もある。ハイテンションで音の渦、演奏もかっちりしていて高揚感がある。リズム、メロディレスで音の塊をリズミカルに叩きつけるパートもあり、硬派で良い。

A5 Two Towers 5:46 ★★★★★

メロディアスなスタート、モダンなプログメタル要素が強い。緩急をしっかりとつけているというか、こういう音楽性・系統のバンドの中ではかなり完成度も高くスケール感がある音作りに感じる。かなり激烈でハードコアなパートを経てツインリードで美しさを感じさせるギターパートへ。この美醜の組み合わせの感覚、「突然美しさが出てくる」というのはモービッドエンジェルとかエンペラーにも通じる感覚だな。「激しさ」の表現は多少違うけれど。落差に耳を惹かれる。

B1 A Higher Level Of Hate 4:07 ★★★★☆

ザクザクとした、バンド全体がたてのりで揺れている。頭を大きく振る、ヘドバンではなくブレイクダウン、ハードコアのビート。この「ビートの差」はあるな。ヘドバンではなく、もっと上半身全体を揺らすノリ。BPMで言うともっとスロウで、ヒップホップも通過したビートなのだろう。ちょっとバギー(ぶかぶか)でスラッカー(だるい、やる気がない)というか、そのビートを血管が浮き出る激しさでたたきつけてくる。そして変拍子、めまぐるしくビートが変わる。やはりこのアルバム面白いな。さまざまな音楽的要素が詰まっていて福袋、詰め合わせのようなお得感がある。LPだとここからB面か。

B2 Collateral Damage 4:15 ★★★★☆

これはプログデスな曲構成。完全にデスメタルでメタリックで飛び回るリフ。ノリもヘドバン。次々と展開が移り変わっていきスリリング。メタル・ジェットコースター。ボーカルスタイルはスクリームだがギターリフがしっかりありギターソロはメロディアス。しなるようなギターリフはグルーヴィーさもある。ニューメタル、メタルコアの流れを感じるがかなり硬派でメタリックな音像。ギターヒーロー然としたギターソロもしっかりある。基本的にハードコアはギターソロがないから、ギターソロがかなりフューチャーされている点はメタル的。むしろメタル寄りなアルバムに感じる。メタルのベースにボーカルスタイルや曲のビートでハードコア的な要素が付与されている、という感じ。

B3 Savages 4:00 ★★★★☆

迫ってくるような迫力、重戦車の突撃のような。現代メタルならではの音圧と迫力。ボーカルもブラックメタル的でシアトリカルな声色の使い分けを行っている。UKのクレイドルオブフィルスとかにも近い。

B4 Conditional Healing 3:58 ★★★★

これはグルーヴィーでミドルテンポだがオールドスクールなデスメタルスタイルでもある。ところどころ金切り音のような、最近のメタルコア(コードオレンジとかも)で多用される金属音(のようなギター)が入ってくる。Djentと言った方がいいのかな。最初にこういうサウンドを多用するようになったのは誰なんだろう。スティーブヴァイとかもギターのサウンドだけならこういう音も使っていたけれど、ブレイクダウンの時に金切り音を出す、という使い方ではなかった。金属が雪崩れてくるような感覚を出すのに使われている、場面の切り替え、きしむ感じが良く出てこれは発明だなぁと思う。これはハードコア色というか、「上半身を大きく揺らす」ノリが強めの曲。だんだんテンションが上がりアグレッション強めでアジテーションのようなボーカルに変わっていく。リズムとグルーヴでテンションが上がる曲。

B5 The Man That I Was Not 6:54 ★★★★☆

90年代後半のオルタナティブロック、インディーロック的な音像、不協和音で少し中低音のボーカル。ボーカルはそこまでけだるげではないけれど、スクリームとは違い、内省的な印象のオープニング。今まで4分台の曲が主だったがラストは7分近い曲か。ややローテンションだったボーカルがいきなりハイテンションに変わり、強烈なスクリームをキメてくる。これは一大メタルコア絵巻だな。緩急のダイナミクスが大きくてパワーがある。後ろにシンフォニックな女声ボーカル(キーボードだろう)が入っていて、ちょっとダークでゴシックな感じも。「今までの曲とは違う感じ」がする。


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