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TEKE::TEKE / Shirushi

総合評価 ★★★★★

カナダを拠点とするカナダ人と日本人の混合サイケデリックバンド。本作は2021年のデビュー作でカナダの権威ある音楽賞であるポラリス賞のロングリストの選出(ノミネート)された。もともと寺内タケシのカバーバンドが母体らしく、日本音楽とサーフミュージックがルーツだそう。バンド名も「テケテケ」。エレキギターのテケテケ音の擬音から。

ジャケットはアンビエントだったりスピリチュアルな環境音楽系みたいだけれど、中身は全然違って歌謡曲サイケデリックサーフロックというかちゃんぽん、ミクスチャー。初期クレイジーケンバンドや渚よう子ファンは好きだと思う。あとはサブカル好きも気に入りそう。折坂悠太にも近いものがあるがあちらは日本のシーンの中できちんと勝負している、アップデートしているけれどこちらはもっと無邪気に「日本らしさ」を追求しているというか、日本人が日本でこれを真顔でやっていたらネタ扱いされる気がする。カナダで、(日本人メンバーもいるが)基本的に洋楽、海外のバンドがやっているが故の衒いのなさ、海外映画に出てくる日本、みたいなディフォルメ感があって面白い。特段どこかが致命的に間違っているわけではないのだけれど、「日本じゃないよね」というか、「日本感」であって、「日本そのもの」ではない感じが面白い。結果としてすごくサブカルっぽくなっている。ナゴムとかムーンライダーズ好きにも訴求しそう。純粋な音楽的完成度からいうと★1つ減ぐらいだけれど、聞いていて「次は何が出てくるんだろう」というワクワク感がある、出し物小屋みたいな感じがする面白いアルバム。


1.Kala Kala 04:03 ★★★★☆

幽玄な響き、尺八的なアンビエント。そこにややサイケなエレキギターが入ってくる。和風のメロディ。そこからバンドが入り、チンドン屋的になる。ズンドコ節というか、お、日本語のボーカルが入ってきた。民謡クンビレオ的だな。民謡リバイバル。完全歌謡曲で歌詞も日本語だけれどいわゆる日本の音楽とは違う、「洋楽」感がある。ミックスとか音響が違うんだな。面白いな、海外のライブハウスに行ったらいきなり日本語の歌が流れている、みたいな「出会い」感がある。レッツ音頭アゲ(イ)ン。間奏はサイケな音の渦。好き放題やっていていいな。初期のクレイジーケンバンドとか渚よう子な感じもして良い。

2.Yoru Ni 04:00 ★★★★★

これは面白い。昭和歌謡+エレキ+インディーサイケデリックロック。もともと寺内タケシ、と言われたら納得。ブルージーンズ感アリアリ。適当な合いの手のような声が入るのもサーフインスト王道。そういえばサーフコースターズってバンドもいたなぁ、あれも面白かった。白井良明がプロデュースしていたよな。ムーンライダーズの。お、インストかと思ったらボーカルが入ってきた。昭和歌謡だ是。イイネ!イイネ!…おっと、これは別バンド。そこから河内節というかいかにも日本的な音階に。いやぁ、日本人だけだと逆にここまでベタにできないだろうなぁ。カナダだから「日本」というのがエキゾチックだし、対象化してエッセンス抽出できるのだろう。なんだろう、別に間違っていないのだけれどディフォルメされている。海外映画で描かれる「日本」みたいな。日本人キャストもいるけれど、やはりベースが海外で撮影された外国映画を見ているような。

3.Dobugawa 03:34 ★★★★☆

チープな、エレクトーンのビートのようなリズムトラック。空手バカボンを連想するがまぁそれはまったく影響ないだろう。余談だがキングクリムゾンのライブに行ったらスターレスをやってくれるのは良いのだが、空手バカボンのバカボンと戦慄を先に聞いていたものだからいつも歌詞が脳内に再生されて感動するというよりコミカルな気持ちになるのは参ってしまう。この曲はメロウでじっくりとしたテンポで進む曲。全体としてムーンライダーズ人脈のアルバムに近い雰囲気もあるな。音の組み合わせ方がマニアック。タイトルが「どぶ川」とはなかなかないなたさ。ちなみにここまで歌詞は全部日本語。女衒の歌か、いや、怪談か。おお、ちゃんとオチがあった。

4.Barbara 03:39 ★★★★☆

勢いのよい、このバンドにしてはパンキッシュな感じ。やけくそ気味な歌唱。なんだか懐かしいな。踊るポンポコリンみたいな、90年代の日本のTV企画バンドのようなお祭り感がある曲。これ、日本盤が出るならナゴムから出すといいんじゃないかな。今は(ナゴムに)鈴木慶一も関わっているし、完璧。やっている本人たちはどこまで意識しているか分からないが、2020年代のカナダの感性で1960年、1970年代の歌謡曲やサーフを掘ると結果としてバンドブームや90年代サブカルをリバイバルしたような感覚も出てくる。手あたり次第、さまざまなものを記号として取り込んでちゃんぽんにしていたのがサブカルの神髄だったのかもなぁ。これ、タイトルはバーバラなのか「ばるばら」なのか。ばるぼら、って手塚治虫の漫画があったような。

5.Kizashi 05:01 ★★★☆

ヘヴィな、チープにしたキングクリムゾンみたいなリフ。そこに琴、いや三味線か? 日本的な楽器の音が入ってくる。三味線だな。三味線奏法で弾いているギターかもな。ああ、バンド名は「テケテケ」、エレキのテケテケか。どこまで分かってやってるんだろうな、面白いな。近所の商店街のステージでライブやってそうな雰囲気が良い。

6.Kaminari 04:03 ★★★★★

「カシミール」みたいな綴りだがよく読むと「雷」か。こちらは音頭感が強い。でもビートは突っかかりがあり、鳴り物なども鳴っているが盆踊り感はない。別のビート。日本人にはやや踊りづらいビート。そこから尺八、殺陣の舞台のような緊張感、からの独唱。追分的な。いや、歌舞伎の見得か。きちんとやろうとしているのだけれどパロディというかどこかコミカルさが出てくるのが日加混交バンドの面白さ。大見得を切って見せて、そこからちゃんちゃんと楽団が入ってくる。面白いなこの曲。曲というかネタに近い。

7.Sarabande 04:08 ★★★☆

「サラバンデ」、どういう意味だろう? 曲もちょっとつかみどころがないというか、プログレ的なインスト。サイケな音世界。これ、クルアンビンとかの流れも汲んでいるのかなあ。こういう音が一部北米インディーズシーンで盛り上がっているのか。ただ、ものすごく日本的、日本人もいるし、日本テイストを過剰なまでに取り入れているのが面白い。日本でも返シドメがいたけれど、あれより全然日本的。というか、多分これ日本でやるとギャグに聞こえちゃうんだろうな。北米だからちょっとエキゾチックに聞こえるというか。日本でも外人が演奏していれば成り立つな。「どちらにしようかな天の神様の」っていってるな。あれ「サラバンデ」っていうの?

8.Meikyu 05:37 ★★★★★

お、やる気を取り戻したというか、盛り上がってきた。人間椅子の人斬り小唄無宿編のような曲。ということは津軽三味線感があり、やや早めのリズムということだ。ギターリフと尺八。いや、フルートかこれ。尺八はこんな演奏はできない。いわゆる「エレキサウンド」。な曲に歌謡曲、歌謡曲を通過したサブカル的J-POPメロディが乗る。奇妙にエキゾチック。どんどん盛り上がっていく。後半椎名林檎みたいになる。事変ですよおかみさん。戸川純バリの演劇性がある喚き声。グレートパフォーマンス。

9.Tekagami 06:08 ★★★★☆

静かな、間欠ビートの中で静かにボーカルが続く。なんだかビートが空手バカボンみたいなチープさがあるんだよなぁ。生ドラムなんだけど。ああ、この曲は赤色エレジーにもちょっと似てるな。幸子の幸はどこにある。でも、ああいうボーカルラインで盛り上がっていく感じではなく演奏、バンドのアンサンブルや編曲で盛り上げていく。ボーカルは前の曲で暴れまわったからかこの曲では熱唱しない。オーケストレーションで余韻を残して終曲。面白いアルバムだった。


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