見出し画像

Avenged Sevenfold / Life Is But a Dream…

USメタルの巨人、A7X(Avenged Sevenfold)の新譜がリリースされました。8枚目のアルバムで、前作「The Stage(2016)」から7年ぶりのリリース。2018年からアルバムの制作はスタートし、2020年末にはほとんど完成していたそうですがコロナ禍によりツアーが延期され、アルバムのリリースも今のタイミングにずれこんだ、とのこと。

A7Xは1999年結成、2001年デビュー。最初の2作はインディーズからリリースされ、インディーズシーンの中で頭角を現したバンドです。特に2作目の「Waking the Fallen(2002)」はインディーズレーベルながらRIAAのプラチナムを獲得するというインディーズとしては異例の大ヒット。2000年代半ば以降、USメタルシーンを牽引する存在になります。

現在のUSメタルシーンは最長老たるKISSAlice Cooperなどが70代。旗手たるMetallicaがだいたい60代に差し掛かろうとしているところ。スラッシュメタルシーンやプログメタルシーンの大御所たちが60代です。90年代半ば~後半デビュー組のSlipknotDisturbedは50代。活動休止してしまいましたがLinkin Parkはその少し下(だいたい45ぐらい)ですね。ShinedownFive Finger Death Punchあたりも40代半ば。そのさらに下の世代がA7Xで、ちょうど40歳になったあたりです。メジャーなバンドの中では一番若手なのがA7X。A7X以降、スタジアムクラスのメタルバンドはUSからは出ていません(なお、UKだとBring Me The Horizonがだいたい30代半ば。A7X以降はUSよりUKが復調気味)。

A7Xはメロコアからの影響が強かったのが初期の特徴で、メロコア Meets メタルという音楽性でした。歌メロにフックがありわかりやすい。それでいて旧来からのメタルの語法、豊富なギターメロディやリフ、ドラマティックな曲展開などを持ち合わせていました。いわゆる「メタルコア」と呼ばれるジャンルの中ではボーカルがメロディアスであり、80年代のヘヴィメタルの音像に近い。80年代と00年代のUSメタルをつなぐミッシングリンクのようなバンドであり、故に僕は現在のUSメタルシーンにおける最重要バンドだと思っています。SlipknotDisturbedは彼ら独自のスタイルが強いじゃないですか。それに比べるとA7Xはアルバムごとに音楽性を変えるし、拡張していく。ある意味2000年代初頭までのMetallicaに近い「USメタルシーンのトレンドを決めるバンド」足りえると思っています。その試金石となるのが本作。

そんな彼らが7年ぶりに出してきたアルバムはどんな音像なのか。事前リリースされた曲「Nobody」を聴く限りではUSルーツミュージック(ブルースなど)への接近も感じましたが、アルバムを通して「A7Xが提示する2020年代のメタル」がどんなものか、聴いてみましょう。

YouTubeでの全曲プレイリスト


総評 ★★★★☆

予想を裏切られた。Metallicaの「72 Seasons」に対するピッチフォークのレビュー(→記事)で「最高の瞬間があるけれどそのためには30分以上座っていなければならない(≒曲が冗長で退屈なパートも多い)」みたいなことが書かれていて、前半を聴いているうちは「退屈な部分を切り落とした複雑な展開のメタルアルバムを作ろうとしたのかな」と思ったんですよ。なんだかMetallicaみたいなリフワークとか出てきたし、そこに下の世代ならではの編集感覚というか、「盛り上がる部分だけを抽出して、長くなりそうならカット」という作りなのかな、と。彼らの持ち味であるメロコアっぽい印象的なボーカルメロディも出てきたし。

ただ、4曲目でいきなり実験的になって2020年代のミクスチャー感覚、映画のサントラ的な効果音やシーン展開などを使って曲のドラマを展開していく、一つ一つのシーンは断片的でショート動画の連続のような極端な変化が入ってくる。これは最近のポストハードコアとかブルータルプログでも使われる手法ですね。これが面白いなと思っていたら5-6では長尺のドラマをきちんと描いて見せる。

で、ここからが完全に予想外で、7曲目以降が今までのA7Xにはない、かなり音楽性を拡張した実験的な内容。音像的にはプログレッシブロックに近い。メタル色は薄いものの演奏技術が高く音数が多い。こういう路線で来るとは予想外でした。こうした「期待をしっかり裏切ってくる」のはむしろA7Xに期待していることなので嬉しかったのですが、90年代メタリカのように問題作なのも確か。少なくともメタルではないですからね。ただ、プログレッシブロック的なので楽器隊のスリリングな攻防自体はあるので聞きどころは多い。うーん、後半は一聴しただけだと「ものすごく魅力的」ではなかったですが、「新しくて面白い音像」と感じました。また聞きたいと思ったし、聴いているうちに好きになっていくのかも。いずれにせよ、音楽的語法、可能性をかなり拡張した意欲作です。

あと、「プログレッシブロックの復調」が起きていると個人的には感じていて、それを2022年のベストアルバム選定の時(→当該記事)にも書いたのですが、やっぱり「プログレ的な音像、曲構成」が2020年代になってリバイバルしてきている、改めて「面白い音」として取り上げられている気がします。そういうアルバムが増えている気がするんですよね。組曲的な手法だったり。個人的にはそうした流れに乗り、本気で自分たちの音楽的可能性を広げた意欲作だと感じて好印象ですが、本作がどのような商業的評価・ユーザーからの評価を得るのか楽しみです。なお、RYMでは現時点ではそこそこ高評価(もともとあまり点数が高いバンドではないけれど、過去作の中では高め)。皆さんはどう思いましたか?


1 Game Over 3:46 ★★★★☆

物悲しいギターのアルペジオからスタート。アコギの音はやや硬質で尖っている。このバンドのアコギの音は特徴がある。リバーブ少な目で尖っている、というか。ハードコア的。そこからリフが入ってきてバンドサウンドへ。ハードコア的な少しカオティックな感覚と疾走感がある。ただ、音は極端に尖っておらず全体的にはマイルド。途中からメロディアスで少しけだるさもあるパートに。これはメロコア的。バッドレリジョンとかランシドとか。ただ、ドラムの手数の多さとかピロピロしたギターとかかなりメロディアスなボーカルなどはメタル的。途中でOZの魔法使いのサントラのような、ファンタジックでミュージカル的なパートに。今回は面白い音作りだな。メロコアMeetsメタルだとコヒードアンドカンブリアとかもそうだけれど、やはりA7Xは組み合わせ方のセンスがいい。この曲は勢いもありつつ複雑さと生々しさを合わせ持った曲、いいオープニング。


2 Mattel 5:30 ★★★★★

疾走感があるスタート、からややバッキングが控えめなヴァースメロディに。ただ、バスドラムは細かく、パルスのように断続的にツーバスを鳴らす。エクストリームメタル(ブラックメタルやテクデス)的な手数の多さなのだけれど、ドラムの音は軽めというかハードコア的。重厚感より軽やかさがある。ギターの音は前の曲に比べると分厚く、メタリックな質感が増している。歌メロはなんだか歌謡曲のようというか、妙に人懐っこい。この「人懐っこい歌メロ」もこのバンドの持ち味。メロコアというかエモ(パニックアットザディスコとか)というか。ちょっとナヨナヨしながらもしっかり盛り上げる。ところどころにグロウルっぽい歌い方も混じるが、強い怒号というより吹雪のようなかすれた声。これはハードコア的。遠藤ミチロウも弾き語りではこういう声を多用していた。途中から堂々とした歌メロに。そしてアグレッション強めのグロウルパート。これは面白い。UKメタルコア、BMTHなどの「新しいメタル音楽の開拓」に負けず劣らず、USメタル新世代の旗手としての矜持を感じる。エクストリームメタルのアグレッションの表現語法、激烈なブラストビートやグロウル、音圧の壁などを取り入れつつさまざまな要素を取り入れてしかも完成度が洗練されている。改めて聞くと「2020年代のメタル(の音像)」を提示している曲。


3 Nobody 5:53 ★★★★★

先行で公開された曲。かなりヘヴィでドゥームメタル的な曲。じっくりと展開していく。これは前作のリードトラックもそうだったなぁ。緊張感が高めだけれど展開がじっくり進んでいく曲。改めて聞くと音響的にはいろいろと面白い実験もされている。ずっと左側でノイズのファンファーレみたいな音が鳴っているし、途中でファンタジックなパートに。USのポストパンク勢(Turnstileとか)やUKブルータルプログ(Black Midiとか)との連動性も感じる。いきなり違う音色、シーン展開を差し込んでくる感覚。単純な「リフ、ボーカルメロディ、ビート変化」による展開ではなくさまざまな「音色」そのものを使って曲が展開していき、場面が変わっていく。ある意味プログ的、ミュージカル的ですらあるが、そこで選ばれる音色や語法がすべて現在のエクストリームミュージックで語法として確立している/しつつあるものであるのが面白い。モダンであり、2020年代のトレンドをうまく取り込みつつも先鋭的すぎない、メインストリームに受け入れられるバランスを保っている。「クールなイメージ」を持ったまま適度にポップ、実験的なのにしっかり売れる感じがする。これも改めて聞くと「2020年代のメタル」を提示した曲と言える。実際にどう市場評価されるだろうか。


4 We Love You 6:15 ★★★★☆

かなり実験色が強くなってきた。この曲は今までに比べて曲構成がいびつ。唐突に展開していく。かなり強引な展開ながらちゃんと人懐っこいメロディパートが出てきて曲のキャッチーさを持たせているのは流石。ライブでの盛り上がりを意識したような曲。ちょっとインダストリアルメタルを人力でやっているようなヴァースから、まったく違うシーンの静謐なブリッジに富んだり、「次がどうなるか」が予想できない。ブルータルプログ的。お、そこから疾走パートへ。Metallicaの長尺の曲構成を各パートの変化をもっと極端にした感じ。これは面白い曲。かなり実験的。多様な要素を曲構成に盛り込んだと感じていた1-3曲目まではまだ様子見だったということか。この曲はさらに多様な要素をコラージュのようにつなぎ合わせて一つの曲にしている。めまぐるしく展開していく、映画のサントラのような。TikTok文化みたいなショート動画の「1分」や「45秒」ぐらいでシーンが変わるイメージなのだろうか。ちょっと最後の静謐なシーンが余韻を引っ張りすぎかな。面白い曲だが何度か聞かないとよく分からない複雑さがある。この曲も先行リリースしていたのか。冒険的。YouTubeのMVのコメントに「これは曲じゃない、断片だ」と書いてあったがそう感じる人がいるのも分かる。かなり攻めた内容だけれど、「A7Xならではの音楽的語法」を発明できる方向性であることも確か。前の世代の拡大再生産からの脱却が現在のメタルの重要課題なので、A7Xがそれに取り組むのは彼らのおかれた立ち位置からすると大いに歓迎すべきことだと僕は思います。


5 Cosmic 7:31 ★★★★☆

前曲も6分越えだったがこれも7分超えの長尺曲か。エレキのコードストロークにvocalが乗る、弾き語りのようなパートでスタート。シンバルが入ってくる。バラード的な始まりだがBPMは早めなので途中から疾走しそうな印象。とはいえいきなり盛り上がるのではなくちょっとずつ音が入ってくる。ボーカルラインが盛り上がり、メロディアスなギターソロがスタート。バラードか。前の曲が6分とはいえ「めまぐるしく変わるさまざまなパートの集合」的だったのに比べるとこの曲は一つの曲として連続して流れていく。これはしっかりとしたバラードだな。途中で急に別のシーンに変わることなく音が足され、オーケストレーションが入り、壮大に盛り上がっていく。

…と書いていたらいきなり電子音だけになり、ドラムのテンポが変わった。タイトルからするに宇宙に旅だって行くイメージだろうか。Devin TownsendWhyのような浮遊感が出てきた。そういえば最近のメタルのテーマは「宇宙」なのだろうか。Gojiraも宇宙っぽい曲があったし。テクデスの人たち(Blood Incantationとか)も宇宙好きだよね。Space Xとかでみんな興味が高まっているのかな。考えてみたらアポロ計画以来にアメリカでは宇宙開発熱が高まっているのかもしれない。


6 Beautiful Morning 6:32 ★★★★☆

小刻みなリフでスタート、ボーカルが乗ってくる。前の曲から自然につながっている、明らかに別の曲ではあるのだが曲間が短いことと、なんだか曲の途中から始まるような感じがするからかもしれない。ミドルテンポでじっくりと展開していく。この曲もテンポチェンジがあり、いくつかのパートが組み合わされている。ファンタジックで幻想的な静のパートは前作でも使われていたが今作はより大胆に使われているな。シーンが変わり、物語が進んでいく感覚がある。コンセプトアルバムなのかな。わかりやすい歌メロがなくやや弱いなと思っていたが後半に向けて盛り上がっていく。時間をかけて盛り上がるタイプのドラマティックな曲。5と6はセットで考えられているのかもしれない。この2曲でかなり起伏がある。


7 Easier 3:37 ★★★★

ちょっとシーンが変わり、明るいシンセ音。ダフトパンクみたいなボコーダーのコーラスからスタート。LPだとここから2枚目。インタールード的な位置づけか。場面転換。お、ブルージーで粘りっこいギターソロが出てきた。アウアウ、と叫ぶような音が入る。音の遊び心がある。前の2曲がシリアスでヘヴィなイメージだったのでそれに比べるとだいぶ明るい音像。


8 G 3:37 ★★★★☆

シンセ音が出てきて、かなりプログレッシブロック的な「変拍子+シンセフレーズ」な音が展開される。そこからヘヴィでブルージーなパートに。そういえばA7Xってボーカルのミックスが大き目だよね。歌メロが前に出てくる、というか。これは特徴だと思う。女性ボーカルが入ってきてハーモニーでコーラスへ。ミュージカル的な曲。なんだろう、これはプログレだなぁ。ザッパ、、、というか。ザッパほど遊び心はないが低い声でボーカルがうなるのがセントラルスクロージナイザー(ザッパの「ジョーのガレージ」で出てくる進行役)を連想する。これは面白いな。ひねくれた感じがミュージカル期のThe Kinksを連想したり。もちろん2020年代のメタルなので音像も演奏もはるかにカッチリしているのだけれど。7以降予測不能な音像になってきた。


9 (O)rdinary 2:52 ★★★★☆

シンセ音から軽やかなカッティング、シティポップみたいな。まぁ、ファンクというべきか。まさかこういう音像で来るとは。ピコピコしてるしカッティングは瑞々しい。低めの声でボーカルが歌っていたと思ったらダフトパンクみたいなボコーダーで加工されたコーラス。中後期リンキンパークみたいな音楽性の拡張を目指したのか。いびつなディスコソングみたいでもある。ただ、曲としては面白いのと、演奏がテクニカルというかプログレ的。メタリックな質感はほとんどないけれどプログレ的だから面白い。聞いていて面白い。


10 (D)eath 3:19 ★★★★☆

飛行機の離陸音のような音からクラシカルなストリングスの調べへ。タイトルから見るに「死んだ」ということなのか。魂の飛翔のような。フランクシナトラみたいなバラード。後半はエモだな、いろいろな音を組み合わせて感情表現をしている。これ本物のフルオーケストラを入れているようだ。サウンドが大仰。クルーナーボイスで歌い上げる。そういえばアークティックモンキーズの新譜もこんな感じだったな。ちょっといびつなオールディーズというか。朗々と歌い上げ、かなり大仰なオーケストレーションが入ってくる。後半、不協和音が出てきて怪獣映画のタイトルトラックのような音の重なりに。8-10は組曲だな。


11 Life Is But a Dream… 4:29 ★★★★

ピアノ、洒脱なシャンソンのようなメロディアスなピアノからスタート。儚い、夢のようなイメージ。タイトルが「人生は夢に過ぎない…」だし、死生観を扱ったコンセプトアルバムなのか。あれ、これピアノインストなのかな。いつまでもほかの音が入ってこない。流麗だがだんだんピアノが狂気じみてくるというか、少し外れた音が混じってくる。ああ、これはピアノインストだけで終わるのか。すごいな、攻めている。7曲目以降は全体で一つの組曲と言えるかもしれない。さまざまなシーンがある。過去の再生産ではなく、「いい曲を集めたアルバム」でもなく、「新しい音楽」を模索している内容。挑戦的。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?